第16回 歯科医師夫婦のつれづれ手帖:イギリスの歯科医師免許試験に挑む

歯科医師夫婦のつれづれ手帖は、歯科医院を共に営む夫(真面目なのでここではマジオ君)とともに、医院を訪れる患者さんに自分たちの人となりを知ってもらいたいという気持ちから、2014年から書き始めた小さな文章。
なんだかんだで続いています。
ルールは2つだけ。
1 必ず毎月、どちらかが書く。
2 内容は、歯科治療以外のこととする。

歯科医師夫婦のつれづれ手帖vol 16  イギリスの歯科医師免許試験に挑む その1

先月9月の半ばより、休みを頂いて2週間と少し、英国はロンドンに滞在してまいりました。暮らすようにに滞在する、今はやりの滞在型ステイ、などと言えば聞こえはいいのですが、今回の目的はセミナー参加とその後の試験。滞在費を減らすため10人近くが一緒にくらすシェアハウスに滞在し、すべて自炊で缶詰めになって勉強するという辛いものでした。渡航前の宿からのメールには、「トイレットペーパーも持参のこと」とありました…(汗)

メルティングポット(人種のるづぼ)といわれる英国では、その需要の高さから様々な国の医師、歯科医師に広く門戸を開き、EU圏の医師は無試験で、EU圏以外の医師は試験を受け合格すると国内で働くことができます。

10年前に留学した時に同じセミナーにいたインドや中東の友人が働きながら留学を続けるために受けていたことでこの試験の存在を知りました。興味本位でどんなものかと調べてみると、一次試験は筆記ですが、2次試験は患者さん役の俳優相手に治療計画を説明したり、実際の技術をマネキンで行ったりという全くの臨床試験です。

渡英して働く、というほどの気持は無かったのですが、縁あって滞在した国の生の歯科事情をよく知りたい、世界の標準を知りたいという好奇心から、いつかこの試験を受けてみようと思って少しずつ勉強を始めました。 試験を受けるために提出する英語の試験勉強から始めた3年前は、まさかこの試験が合格率20パーセント、第二外国語として英語がぺらぺらの国の人たちでもなかなか受からない厳しい試験だとは、想像していませんでした。

多くの働く人がそうであるかもしれないと思うのですが、日々の仕事に追われているうちに自分がこの仕事を選び働き始めた原点を忘れ、人の意見に振り回され、情報の波に飲まれていきます。私もそうでした。

しかし、少しづつ、本当に少しづつ勉強を続けるうちに、20年前に国家試験を受けた時の気持ちや、歯科治療の基本の基本がよみがえりました。最新のアメリカの審美歯科の考えなどとはまた違う、なるべく自分の歯を大切にする治療法や本当に礼儀正しい患者さんへの接し方などを重要視する英国の歯科医療は、本当に興味深く、勉強していて楽しいものでした。

試験を受けるためのIELTS英語試験から始まり、一次試験、その後イギリス政府の方針で試験が1年以上行われず、やっと今回の2次試験と、数年かけて少しつづ進めてきた試験勉強。上記のとおり、一度や二度で受かる可能性は低い厳しい試験です。誰にも言わずに、と思っていましたが、この得難い経験を、やはり言葉にして残しておきたいと思い、今回こうして文章にしてみました。何度かにわたり、ロンドンの風景とともにみなさんにお話していきたいと思います。 ただし・・・お願いですから、数週間後に出る試験の結果はけしてきかず、そっとしておいてやってください。私からのお願いです。(MDCニュースレター2015年10月号より のあみ文)

回想版 ノッティングヒルで勉強漬けの日々

文中に出てくる「シェアハウス」とは、ロンドンのチューブ(地下鉄)のセントラルライン「クイーンズウェイ」駅のすぐ近くにあるアップルハウス。シェアハウスなので、とにかくホテルに比べて安いのと、日本人向けの宿なのでほとんどが日本人という気安さ、そして圧倒的な立地の良さ。「トイレットペーパーは個人で用意」「お風呂にお湯を入れて入ってはいけない(シャワーのみ)」「台所やお風呂を使ったら完全にきれいにする」などの少々面倒臭いルールを計算に入れても、かなりのコスパの良さだった。

宿のすぐ前には、ハイドパーク(写真)が広がり、有名なアンティーク市(ポートベローマーケット)が開かれるノッティングヒルは隣駅。しかし、そんな魅力的な場所を訪ねることもなく、試験直前の2週間ほどの滞在中は、ひたすら自室で勉強、そしてORE向けの直前セミナーを二つほどロンドンの端から端へと通い、仲間を作って情報収集に明け暮れた。(What’s Appというアプリの存在を知ったのもこのとき。海外では圧倒的なシェアだった。)

あれから5年がたった今も、あの2週間の滞在ははっきりと思い出すことができる。私にとっては人生で1番というほどの、大きな大きな挑戦。今でも、あの時の挑戦の意味を、考え続けている。

 

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