ワクチンの向こうに、再び英国を思う日。

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ワクチン接種の日に思う。

しばらく放っておいてしまったブログですが、まずは歯科医院のホームページとリンクしている「歯科医師夫婦のつれづれ手帖」全82回分を整理しようと、パソコンを開いています。これは、開業して4年ほどたった2014年から、患者さんに読んでもらおうと夫婦で書いているちょっとしたお話。最初はぺらりとした紙に印刷して。しばらくしてからは、院内新聞の一部にコラムとして。これを、このブログに記事として写真とともに整理し始めているのですが、これが意外と大変。先日の休診日にずいぶん頑張って、以前に整理した分と合わせてなんとか30回まで、そしてちょっととんで最近の分72回から最新の82回までを、このブログに無事投稿〜!ああ、まだまだ先は長いが、少しゴールが見えてきた、というところ。他愛のない話ばかりではありますが、早く1回からきれいに整理して、医院のホームページを訪ねる方にも少しでも見ていただけたら、と思っています。

ところで、今日はコロナワクチン1回目の接種しました。大病をした80歳の母よりも早く、医療従事者枠で接種させていただいたことに感謝し、これからも、十分な注意のもと、診療を続けていきたいと思います。今日は、このコロナワクチンと、エッセイを整理していて見つけたイギリスの歯科医師免許試験を受けた時のお話を久々に読んで、感じたことを少しお話ししようかと思います。

遠くに行ったイギリスが、また近づく日

2004年に英国留学してからというもの、もともと好きだったイギリスは、「また住んでみたい国」になりました。
当時6歳だった下の息子が、高校を卒業したら。なんとなく時期をそう定めて、40代も半ばに入ってから、イギリスで歯科医師として働くための試験を受けました。(システムにより、実質3年ほどの年月がかかりました)

外国人がイギリスで歯科医師として働くための試験を受けたあとに、3回連続で書いたエッセイの最後の記事がこちら。興味のある方は覗いてみてくださいね。



 

しかし、その後皆様もご存知の通り、イギリスのEU離脱、そしてこのCOVID19の世界的流行により、イギリスはおろか、県外に行くのも大変な時期がやってきました。個人的には家族の病気もあり、試験に受かったことですぐ近くにいる様な気持ちになった英国という国が、あっという間に遠くに離れていってしまった。そんな気持ちでした。

第18回「歯科医師夫婦のつれづれ手帖」の回想記にも書きましたが、外国人向けの歯科医師試験(ORE)を受けた背景には、在英6万人(2018年12月:外務省ホームページより)とも言われる大きな日本人マーケットの存在がありました。実際、イギリスで出会ったたくさんの日本人(子供たちの学校の父兄や留学生仲間)に、在住中のいろいろな歯の悩みを相談され、在英の日本人を診る日本人歯科医師の需要はとてもあると感じたものです。留学していた2004〜2005年当時、日本で免許を取って、イギリスで診療している純粋な日本歯科医師は私が知る限り1名だけ。その後、10年以上たって、2〜3名の日英両方の免許を持つ日本人歯科医師がイギリスで診療を始めたようですが、在英日本人数に対して、まだまだ足りていないのではないでしょうか。

ORE試験を受けた次の年、2016年の国民投票で、イギリスはEUからの離脱を決め、昨年完全に脱退しました。2004年当時本当にたくさんいた駐在員はおそらくだいぶ減ってしまったでしょう。その後、現在イギリスにどのくらいの日本人が住んでいるのだろうと気になって、再び外務省ホームページを調べてみました。意外なことに、米国、中国、オーストラリア、タイ、カナダに続いて、イギリスは令和2年でも第6位の在留邦人数があり、その数は6万3千人あまり。COVID19の影響で令和元年からは5%近く落ち込みましたが、それでもまだこんなにたくさん日本人が英国に住んでいることにとても驚きました。都市別では、ロサンゼルス、バンコク、ニューヨーク、上海、シンガポールに続いてロンドンが第6位で3万2千人の日本人が長期滞在または永住者として住んでいます。

今後、イギリスで暮らす日本人は減るのか。それとも増えるのか。EU離脱の本当の影響がわかるのはCOVID19が収束するまでわからないかもしれませんが、急速に進むワクチンの接種、および世界中の頭脳による研究が進み、遠くなってしまったイギリスへの距離感が少しずつ、また小さくなってきた気がして、今日の自身のワクチン接種は未来への明るい兆しが見えました。

当時、ORE合格通知の最後に添えられていた、General Dental Council (OREを担当する公的機関)の試験担当チームからの一言
「Please accept our good wishes for the future」

この言葉を見た時、試験に受かってもちろん嬉しいけど、50代を目前にして「future」などと言われても、いったいどんな未来があるのだろうかと、チクンと自分の年齢を感じたものです。しかし、その後、EU離脱があり、コロナ禍があり、自分の小さな医院や家族にも大小いろいろな事件があり、どんな年齢でも、未来は延々と続いて行きます。自分が今ここに生きて、なんとか健康な体がある。年齢なりのしがらみ、義務、責任は大きくなる一方だけど、みんな背負ってなお、一歩また歩き出せるかも。「歯科医師夫婦のつれづれ手帖」を夫婦で書き始めて7年。ちょっぴり恥ずかしい昔の文章を整理しながら、接種後のちょっとした肩の痛みとともに、小さな勇気が湧き上がってきた気がしています。

 

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