30年と30秒 〜第134回 歯科医師夫婦のつれづれ手帖〜

「歯科医師夫婦のつれづれ手帖」は、2010年から歯科医院を営む夫婦が、医院を訪れる患者さんに自分たちの人となりを知ってもらいたいという気持ちから、2014年より院内新聞の一角に書き始めた小さな文章。なんだかんだ言ってもう11年、続いています。

ルールは2つだけ。

ルール1 必ず毎月、どちらかが書く
ルール2 内容は、歯科治療以外のこととする(時々ルール違反あり)

さて、今回は院長が担当。真面目な院長らしい文章です(笑)

第134回 30年と30秒

秋は気候的に過ごしやすく、いろいろと楽しむゆとりが生まれるためか、「○○の秋」といわれるものが多くあります。その中の一つ「芸術の秋」。紅葉も始まり、植物が実りをつける季節でもあり、美しい自然美を身近に楽しめることも理由かもしれませんね。

さて、私は芸術に造詣深いわけではありませんが、機会をみつけては美術館や展覧会に足を運びます。「歯科」は「サイエンスとアートの融合」だと考えており、芸術に触れることは仕事にも役立つと思っています。 しかし、それ以上に、その作品に作者が込めた信念のようなものに想いを巡らすのが好きなのです。

ここで偉大なる芸術家ピカソに関わる逸話を、一つ紹介します。

ある日、ピカソがマーケット歩いていると、見知らぬ女性が話しかけてきました。「ピカソさん、私はあなたの大ファンです。この紙に一つ絵を描いてくれませんか?」 ピカソは彼女に微笑み、たった30秒ほどで小さいながらも美しい絵を描きました。

そして、彼女へ手渡してこう続けます。「この絵の価格は、100万ドルです」

女性は驚いて言いました。「この絵を描くのにたった 『30秒』 しかかかってないのに、なんて法外な…」

ピカソは笑います。「違います。30年と30秒ですよ」

ピカソの天才的な才能は誰もが知るところです。そんな彼の能力を “時給” で測ることなどできるはずはありません。また、どんなに短い時間であれ、 どんな素材を使っていたとしても、 長年積み重ねてきた努力から育まれた信念のようなものが、作品には宿るのだと思います。

ピカソほどではなくても、およそその道のプロは誰しも、日々人には見えない努力を継続しています。

にもかかわらず、その成果が正しく認識されないことはしばしばあります。「仕事の値段」を決めることは、自分自身の価値を決める責任のある行動です。

私たちも、その方に合った適切な歯科医療を提供するために、常に知識と技術のアップデートに努めています。保険治療においては様々な制限はありますが、だからといって手を抜くことはありません。しかし、自由診療の方が、培った真価本領を発揮できるのは確かです。みなさんが「食欲の秋」を堪能するだけでなく、イキイキとした人生を送られるよう、お口を守るパートナーであるために、 春夏秋冬研鑽を続けています。

(文:松浦政彦)

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