おでこにしわを  第132回 歯科医師夫婦のつれづれ手帖

「歯科医師夫婦のつれづれ手帖」は、2010年から歯科医院を営む夫婦が、医院を訪れる患者さんに自分たちの人となりを知ってもらいたいという気持ちから、2014年より院内新聞の一角に書き始めた小さな文章。2024年4月の移転後も、なんだかんだ言って続いています。

ルールは2つだけ。

Contents

ルール1 必ず毎月、どちらかが書く
ルール2 内容は、歯科治療以外のこととする(時々ルール違反あり)

おでこにしわを

晩酌しながらテレビドラマを見るのが、日ごろの楽しみです。

最近見ているドラマの一つに、日曜日夜の「19番目のカルテ」があります。病気だけではなく、心や生活背景をもとに患者さんにとっての最善を見つけ出し、生き方そのものに手を差し伸べる総合診療医徳重を松本潤さんが、正義感の強い若い医師滝野を、小芝風花さんが演じています。

このドラマの初回での一コマ。滝野は経験が少なく、余裕がありません。

徳重が初めて会った彼女に対し、眉間にしわを寄せている顔をさし「悪い顔してる」と、指摘します。シーンを見て、中学時代のあるエピソードを思い出しました。

私が卒業した中学校は合唱運動が盛んなところで、文化祭で行われる合唱コンクールは、クラスメイトが一致団結し真剣に取り組む行事でした。コンクールに向け練習をしていたある日、音楽の先生から言われました。

「松浦くん、良いんだけど力が入りすぎ。眉間にしわが寄っている。眉間じゃなくておでこにしわが寄るような感じで歌ってみて」。

正直、あの頃はよく分かりませんでしたが、今は少し理解できます。力が入りすぎていると周りが見えにくくなるし、周囲も構えがちになります。少し肩の力を抜くくらいの方が、良い仕事ができます。

滝野の奮闘ぶりを見ていて、もう一つ、眉間にしわを寄せている場面が思い浮かびました。
私が誰かに注意しているときです。真剣に注意するには、けっこうなパワーが必要です。言った後に自己嫌悪に陥ることもあります。

まさに、心を鬼にして注意しているのです。「私もときどき、それが顔に出てしまうことがあるのでは?」と、思いました。

これは効果的ではありませんね。冷静になり事実を確認し、背景を考慮して、お互いのプラスになるようフィードバックをすべきです。信頼関係にひびが入るようなアプローチの仕方は行わないよう、心に刻みました。 

しかし、頭ではわかっていても、出来ないのも人間。もし、眉間にしわが寄っている私を見かけた際には、「おでこにしわを」と、そっと忠告していただければ幸いです。 

(文: 松浦 政彦)

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