矯正歯科医John Mewが教えてくれたたくさんのこと〜第52回 歯科医師夫婦のつれづれ手帖

歯科医師夫婦のつれづれ手帖は、2010年から歯科医院を営む夫婦が、医院を訪れる患者さんに自分たちの人となりを知ってもらいたいという気持ちから、2014年より院内新聞の一角に書き始めた小さな文章。
なんだかんだで続いています。
ルールは2つだけ。

ルール1 必ず毎月、どちらかが書く
ルール2 内容は、歯科治療以外のこととする(時々ルール違反あり)

第52回 矯正歯科医John Mewが教えてくれたたくさんのこと

 京都大学の本庶教授がノーベル賞をとった吉報は記憶に新しい。

「免疫療法」の知名度が一気に上がったことで、慎重に適応を選び行えば「効果のある免疫療法」と、有効性が証明されていないにもかかわらず同じ名前を使って高額な報酬を要求されることもある「(広義)の免疫療法」との違いを見極めるようにとの警告をあちこちで見るようになった。

これを見ても、「本流」と一線を画した治療の可能性を求めた本庶教授のこれまでの道のりは平たんでなかったことが分かる。うさんくさい治療と勘違いされたり、効果がないと蔑まれることもあったろう。

「多くが見向きもしない石ころを10年、20年かけて磨き上げることは、強い気持ちがなくてはできることではない」(読売新聞「編集手帳」より)。

 この話は、私にとっては、先日ロンドンで行われた学会でお会いしたイギリスの矯正歯科医師、御年90歳のジョン・ミューと重なってしょうがない。

歯並びの不正が顕著になるまで待ってから治す「当たり前の」矯正歯科界に異を唱え、ミュー氏は早期から不正の芽を摘んで、正しい方向へ頭蓋骨を誘導することが大切と、不正の原因にアプローチしない従来の矯正治療へ警鐘を鳴らし続けた。

80歳の時、「矯正歯科医師は、もっと早期に他の治療法があったにもかかわらずそれを患者に教えることをしないで、悪くなるまで待って抜歯や手術をすすめている」と公の場で批判したことで、General Dental Council(イギリスの歯科医師の免許登録、管理全てを行っている公的機関)から強い警告を受けたという逸話を持つ。(*イギリスでは重度の歯列不正は保険が効くため、わざわざ悪くなるのを待つ人も多い)

 当院で数年前から取り入れて成果を上げているMRC矯正治療の原点は、このジョン・ミュー歯科医師の提唱するオーソトロピクスという早期治療である。

歯並びだけにとどまらず、早期に歯列不正の原因に対処することで、顔面の美しい成長、舌の位置を正しく導き気道を広く成長させるといった大きな産物に関心を寄せ、ジョン・ミューの哲学を広めようとしている歯科医師は多い。

本人も、90歳を迎えてなお、世界中を飛び回って講演を続け、日本でも講演が予定されている。

 本庶先生の言葉を借りるなら、

「教科書に書いてあることを信じない」

「本当はどうなっているんだという心を大切にする」。

まさにその「critical mind(当たり前を信じない心)」を生涯かけて実践し続けている人である。

妻を亡くした後もイングランドの不便な田舎にある「お城」に暮らすDr John Mew

(文 松浦直美)

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