【大人の予防歯科】唾液検査を利用した予防プログラムの全貌

こんにちは。歯科医師の松浦直美です。

前回は、予防歯科を始めるための効果的なツールとして、「唾液検査」をご紹介しました↓

実際は、唾液そのものだけではなく、食事の習慣や内容、フッ素の使い方などをお伺いして、総合的にその方の虫歯になるリスクを判断し、予防に活用していくものです。

今回は、検査がどのようにしてオリジナルの「予防プログラム」へと反映されていくのかを、特別に、お見せします!これを見て、「自分も予防プログラム、作ってもらいたいな」と思う方がいらしたら、嬉しく思います。

Contents

唾液検査で調べること

唾液検査ので調べさせてもらう項目は、以下の通りです。
1. 唾液の量
2. 唾液の緩衝能(酸性に傾いたお口の中を中性に戻す力)
3. ミュータンス菌の量
4. ラクトバチラス菌の量
5. 水以外の飲食の回数と内容(2〜3日分の記録をとってもらいます)
6. 歯の汚れ具合
7. フッ素の使用状況
8. その他、全身の病気などの問診
この結果を元に、この方の虫歯への感受性を調べていきます。

当院で使用している唾液検査のキッド。簡易版を含め多くの製品が出回っていますが、最も正確なものではないかと思って使用しています。

スウェーデン式虫歯リスク発見機!カリオグラムの使い方

カリオグラムは、スウェーデンのマルメ大学の虫歯予防学の教授だったDouglas Bratthall先生が開発した虫歯リスクの評価ツールです。唾液検査の結果をひとつひとつ数値化して入れていくことで、将来の虫歯にかかるリスクがわかります。

例えば、以前このブログに出演いただいた47歳の女性、綺麗さん。この方の唾液検査の結果を、カリオグラムに入れてみましょう。

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綺麗さん

看護師の綺麗です。よろしくお願いします。


【主な結果】
*虫歯治療したことのある歯は5本ほど。抜いた歯や、神経を取ったことはない。現在新たな虫歯はなし。
*唾液の量はしっかり出ており、緩衝能もあり。
*ラクトバチラス菌が多く、ミュータンス菌は普通。
*3食のほか、3回間食あり。(看護師のため不規則にお菓子やコーヒーなどを摂ってしまう)
*歯磨き粉にフッ素が入っているかはわからず、特に使い方も意識したことはない。

この方のトータルスコアは12。スコアが10以上になると、将来の虫歯になりやすいです。
ただ、良いところもあります。水色の「感受性」の割合が大きく、唾液の量や質(緩衝能)がとても良いことがわかります。また、45歳という年齢の割には、虫歯を治療した歯が少ない、神経を取り除く治療をしていない、というのは将来においても大きな強みです。ぜひ、今後は新たな虫歯を起こさずに過ごしてもらいたいところ。

虫歯予防のポイントは、グラフの中の「緑色」の部分を増やしていくこと。そのためのプログラムを作っていきます。もちろん、その方のライフスタイルや仕事、性格などもできるだけ加味して、初めは無理のないところから、スコアを改善するよう計画します。

まずは、3回だった「間食」を、2回にしてもらい、それ以外に食べたい時は食後のデザートとして食べてもらうようにします。
次に、ブラッシング指導です。完全にプラークを落とすことは大変なので、いつも多くプラークがついているところだけ、集中して気を付けてもらいます。プラークの量を、半分くらいに減らすイメージです。

この二つを行うだけで、増えて欲しい「緑」の部分が13%から28%に跳ね上がります。

さらに1450ppmのフッ素入り歯磨き剤を朝晩2回、2センチしっかりと歯ブラシに出し、2分間歯磨きするようにします。うがいは一回だけにとどめてもらうようにします。すると・・・

 

緑の部分が、一気に広がりました。この段階で、トータルリスクは9。このくらいになれば虫歯の心配はほぼなくなってきます。

さらにさらに。歯科医院でメインテナンスに来るたびに、歯科医院専用のフッ化物を心配な部分に塗布するようにします。すると・・・

 

どうでしょう。緑色の部分が84%。トータルリスクは8にさがります。

まとめると、この方の虫歯予防プログラムは、
1。間食を一回だけ減らし、2回にする。(それ以外で食べたいものがあれば食事のあとのデザートとして食べる)
2。プラークの多いところだけ、歯磨きを見直す。(指導を受ける)
3。1450ppmの歯磨き粉を朝晩2回、2センチしっかり使用する。
4。3〜4ヶ月に一度のメインテナンス時にフッ化物を塗る。

ということになります。

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綺麗さん

今まで、フッ素入り歯磨き剤の使い方がわかっていませんでした。これだけで、こんなに変化が起こるとは驚きです。2センチ、2分間。そしてうがいは1回ですね。難しくないので続けられそうです!

もちろん、あくまでも上のスコアの変化は、こうすればこうなるだろう、という予測です。本当にそうなったかどうかは、1年ほどしてからもう一度、唾液検査をしてみるとよくわかります。プログラムをしっかり守り、定期メインテナンスにきてくれていれば、大抵の方は予測通り、もしくは予測よりもよくなっていることも多々あります。

虫歯が減らずに困っていた47歳の女性の1年の記録をまとめた記事はこちら↓

唾液検査の意義

歯をよく磨かなかったり、甘いものが好きだったりすれば、虫歯になりやすくなる、というのは誰もがご存知のことかと思います。しかし、虫歯菌が少なく、唾液の量、質とも問題ない方であれば、間食は1日2回くらいまでは何を食べても問題ありません。

逆に、唾液の緩衝能が低かったり、ある種の虫歯菌が多かったりする方は、ほんの少しだけ食べ物の内容に気をつけたり、特殊な歯磨き剤を使ってもらったりすることもあります。

ただ、長い人生、同じ方でも口腔内の状況が変わってくることも十分にあり得ます。変化に気づくためにも、定期的なメインテナンスはとても大切ですし、数年後などに唾液検査を繰り返してみることもオーダーメイドの予防歯科にはとても役立つものです。

まとめ

本日は、実際に患者さんの検査結果をカリオグラムに入れて表の変化を見ていくことで、ひとつひとつの対策がどのように虫歯予防に反映されるのかがわかっていただけたのではないかと思います。これがわかると、やる気も持続しやすくなりますね。

このブログでは、この後もさまざまな方の予防プログラムを時折紹介していきます。ぜひ、参考にしてみてください。

 

 

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