イギリスへの憧れを開いた、美しい絵本〜第78回 歯科医師夫婦のつれづれ手帖

歯科医師夫婦のつれづれ手帖は、歯科医院を共に営む夫(真面目なのでここではマジオ君)とともに、医院を訪れる患者さんに自分たちの人となりを知ってもらいたいという気持ちから、2014年から書き始めた小さな文章。
なんだかんだで続いています。
ルールは2つだけ。
1 必ず毎月、どちらかが書く。
2 内容は、歯科治療以外の事とする。

歯科医師夫婦のつれづれ手帖vol 78
イギリスへの憧れを開いた美しい絵本

20代で初めて2週間ほどの語学留学に出かけたのは、イギリスのロンドン。その後、30代も半ばを過ぎてから、まだ幼かった子供たちを連れて歯科大学院へ留学したのも、ロンドンでした。

イギリスという国への強い憧れ。
その扉を開いたのが、秋田の実家にあった「イギリスの村」という絵とエッセイの本でした。

濃淡や筆圧の強さで動きをつけた黒い線で描かれたイギリスの風景。ページをめくるたびに、美しい丘や草原、 中世の佇まいを残した村々、湖などが、独特のタッチの水彩画で現れる。弱々しく見えるのに強い意志を感じる黒い線の上に滲む決して派手ではない絵具の色。世の中にこんなきれいな世界があるのかと驚きました。

この本の作者、画家の安野光雅さんが、先日94歳で亡くなられたそうです。「一つ仕事が終わると、またやりたいことが湧いてくる」と新聞社のインタビューに語っていたのは86歳の時。私にとっては、印象深い本「イギリス の村」の作者でしかなかった安野氏ですが、多才な方で、画集の他にも教科書の挿絵、数学の本、文学などたくさんの功績があったようです。子供向けの「旅の絵本」シリーズは、「イギリスの村」の柔らかな雰囲気とは違い緻密でくっきりとしたラインで世界の国々の風景が描かれています。もし、実家で見た本が「旅の絵本イギリス編」であったら、あれほどの憧れを抱くことはなかったかもしれません。

先日実家の整理に久しぶりに帰った際に見つけて、大切に持って帰ってきた古く色あせた「イギリスの村」。その直後に安野氏の訃報を聞くことになりましたが、じっくりと本の中のイギリスを再び眺める良い時間をもたらしてくれました。著書を見返しながらご冥福をお祈りするとともに、ありがとうございました、と感謝した人が私の他にも多くいたに違いありません。

(MDCニュースレター 2021年2月号より 文 のあみ)

 

 

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