喪失感の向こうに  〜第97回 歯科医師夫婦のつれづれ手帖〜

歯科医師夫婦のつれづれ手帖は、2010年から歯科医院を営む夫婦が、医院を訪れる患者さんに自分たちの人となりを知ってもらいたいという気持ちから、2014年より院内新聞の一角に書き始めた小さな文章。
なんだかんだで続いています。
ルールは2つだけ。
1 かならず毎月、どちらかが書く
2 内容は、歯科治療以外のこととする

第97回 喪失感の向こうに

東京で暮らす長女と長男、そして北海道の高校で学ぶ二男が帰ってきて、お盆休みは久しぶりに家族が揃った。いそいそと子供たちの好物を用意する妻、鼻歌交じりで好みの飲み物を買いに出たわたし。親バカ注意報発令である。一緒にどこかへ出かけるでもなく、食事のとき以外はおのおのが自分のペースで過ごしていたのだが、家の中に皆がいるというその雰囲気だけで、数日間は満ち足りた気分だった。

しかし、楽しい時間はまさにあっという間。15、16日の二日間で、みんな戻っていってしまった。なんとも言われぬ喪失感。

三人三様に、緑の新幹線に乗って今いるべき場所へ戻っていく。

長女が大学入学のため盛岡を離れてから、幾度も繰り返してきた感情なのだが、昨年までは二男が居たのでこれほど酷くはなかった。残されたわたしたちは活力がわかず、「夕飯は余り物でいいね…」って感じに。

思えばこのようにして、昔から子離れ親離れが繰り返されてきたのだろう。思えば実家でひさかたぶりに犬を飼いだしたのは、10数年前か?その理由を父に問うと、「孫たちが学校入って忙しくなって、全然よりつかかなくなったからさ。」と笑ってた。それ以降、絶えることなく2頭ずつ大型犬を飼い続けている。はたして、犬は孫の代わりになりえたのか?

その実家で、青森で暮らす妹家族とも、今年は会うことが出来た。父母は食べきれないほどの料理を用意し、我々をもてなしてくれた。6名の孫のうち4名は成人し、それぞれの道へ進みつつある。久しぶりに孫の何名かとあった父は、「たまにしか会えないけど、それ位がいいんだ。『じいちゃん、金たりね~。何とかしてくれ。』って、しょっちゅう来られるようだば心配だべ。子供も孫も、それなりに忙しくしてるんだと思えば、ありがたいもんだよ。」と、破顔一笑であった。わたしがそのような境地に到達出来るのは、いつになることやら…

(院内新聞 MDCニュースレター9月号コラムより。文: 松浦 政彦)

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