自分の歯を守りたい!神経を取りのぞいた歯に御用心

こんにちは。歯科医師の松浦直美です。

みなさんは、「根の治療」って聞いたことありますか?おそらく40代以上の方であれば、若い頃に虫歯などで「神経をとりましょう」と言われて治療した記憶がある方も多いかもしれません。

今でこそ、子供の頃からの定期メインテナンスや、ミニマルインターベンション(MI:最低限の侵襲による治療)の考え方が歯科医師の間にも広まり、神経に達するような虫歯がある方は少なくなってきました。また、虫歯治療でもなるべく神経を取らないようにする技術も発達しています。

しかし、すでに以前神経を取る治療をしてしまっている方は、将来再治療になることも多く、その際に知っておくべき点があります。どこまで自分の歯を守りたいのか。その意思決定が必要になる場面が来た時に、考える必要があります。

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「神経」は歯の命!?なるべく残したい

私は子供の頃虫歯が多かったので、乳歯の時も、永久歯になってからも、神経を取る治療をしている歯があります。歯の痛みから解放されて、「神経をとってもらってよかった〜」と思っていましたが、それがとても残念な事だったことは、歯科医師になってから知りました。

神経、というと、歯の中に1本、筋のように神経が走っている様子を想像する方もいらっしゃるかもしれません。実際には、「歯髄」といって、神経繊維と血管が複雑に絡み合った「わた」のようになって歯の一番内部にあ利ます。神経と血管はさらに歯の根の先をでると歯を支えている骨の中を通って太い神経(三叉神経)に合流し、脳まで繋がっています。

神経を取り除く事で、歯は痛みを感じなくなりますが、なんとなく違和感が残ったり、硬いものを噛んだ時に他の歯とは違う感覚を感じたり、何年も経ってから根の先に嚢胞(のうほう)という袋ができて痛んだり腫れたり、という症状が出ることがあります。さらには、歯髄が健康に保存されている歯に比べると、年齢を重ねたのちにひび割れを起こしたり、根が割れてしまう可能性が高くなります。

神経は、大切な臓器。取り除いてしまっても、治療で代用品を詰めることはできますが、長くなった生涯にわたって天然の歯髄と同じような役割を果たすことはできないと言われています。

なぜ神経をとった歯に問題がおこってしまうの?

  1. 違和感や痛みの持続
    これは、比較的よくある症状です。骨の中までつながっている神経を、歯の根の先端部分で断ち切っている形になりますので、痛むほどではないけれど、舌で歯を触った時なんとなく違和感を感じたり、指で根の先のあたりを押すと鈍い痛みを感じたりします。
    また、根管(神経の部屋)は、上の可愛らしい絵のような単純なものではありません。実際には太い根菅の他にも、細かく枝分かれしていると言われていて、完全に神経繊維を取り切って薬で塞ぐことが難しいため、細菌感染が起きやすいのです。そのため、違和感や鈍い痛みが続いてしまうことがあります。
  2. 歯根嚢胞(のうほう)
    先ほどの理由で、根管の中にバイキンが入ってしまい、根の先に嚢胞と呼ばれる袋を形成することがあります。慢性化して特に問題を起こさない場合はそのまま経過を見ることもありますが、痛みや腫れを起こす際は再治療が必要になります。
  3. 歯の破折
    根が割れてしまうことがあります。神経が残っている歯に比べて、神経のない歯は割れやすいと言われています。実際には、歯質がどのくらい残っているか、も「割れ」の大きな要因ですが、神経を取り除くような状況のはというのは歯質も少なくなっていることが多いので、神経のない歯はよく割れる、ということになりやすいのです。

歯を残すために考えたいこと

神経を取り除いた治療をした後に、上記のような症状が出てしまった場合、歯の破折以外は、「根の治療の再治療をする」という選択肢が出てきます。しかし、再治療は成功率が低くなることも多く、治療を始める前によく担当医を相談をしておくことが大切です。

  1. 治療をするのかしないのか
    状況をかんがみて、治療をしないで経過を見ていくのか、成功率は下がっても治療をするのかを、話し合います。
  2. どのような治療をするのか
    保険治療内で、できる限りの再治療をするという選択肢がまずあります。
    もう一つは、保険治療外の治療の選択です。
    当院では対応しておりませんが、複雑な根管形態や、根の先に古い薬や治療器具の一部などが残っていたり、ということも少なくない難しい症状に、時間と技術を駆使して保険外治療で対応している歯科医師が存在します。費用はさまざまですが、保険治療の10倍以上の費用がかかることが多いと思います。しかし、大切な歯を残せるチャンスが増えるのであれば、と保険外での治療をご希望される方もおります。何より、そのような治療が存在することをお知らせするのは歯科医師の責任だと思いますので、私は難治性と思われる方には選択肢としてお話し、ご希望があれば紹介しています。
  3. 成功しなかった場合の選択肢も頭に入れておく
    再治療の成功率が低いとは言っても、もちろん再治療してうまく治癒することもあります。しかし、状況が悪い場合は再治療をせずに抜歯の選択になることもありますし、前述の専門医による保険外治療を行ったとしても、残念ながら治癒に至らなかった、ということもあり得ます。
    根の治療のあとの症状がややこじれてしまった方は、その歯を残せなかった場合の選択肢を含めて担当医と話し合っておくことが大切になるかと思います。

まとめ

歯の中の神経を残すことが大切だ、ということは、わかっていただけたのではないかと思います。しかし、虫歯などの事情ですでに神経を取り除いてしまった方でも、心配しないで下さいね。問題が全く起こらないことも多いですし、何か困ったことがあっても対応方法はあります。

根の治療をしたことがある歯に、痛みや違和感などの症状が出たら、早めにかかりつけの歯科医師の診断を受けるようにしましょう。治療できるのか、治療するのか、は別にしても、状況を把握しておくだけでも大きな安心につながります。

 

 

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