日本の生活者よ!自分の歯に目覚めよ!

こんにちは。歯科医師の松浦直美です。

最近、盛岡から北に車で1時間ほど走ったところにある風光明媚なリゾート地、安比高原(あっぴこうげん)に昨年8月に開校した「Horrow APPI International Japan」。英国の名門パブリックスクールのインターナショナル校です。

2015年、英国の歯科医師免許を取得するために準備したことで、英国の歯科事情はよくわかっていたつもりでした。しかし最近ハロウスクールの先生たちが多く当院を訪れるようになり、彼らと話をすることで、さらに最新の英国の歯科事情も伝え聞くようになり、これからの日本の歯科についても思うことがあります。

歯科治療の費用、海外と日本ではこんなに違う。

まずは、日本で歯科治療を受けられる権利(国民皆保険制度により、全ての人が健康保険に入っている)があることに、私を含む日本人の皆さんは感謝の気持ちが必要だと思います。歯科に限らず、内科、外科、耳鼻科等どの診療科目においても、このレベルの医療をこの安さでうけられる先進国は、皆無です。

私は英国以外の海外の医療保険の事情は、人から伝え聞いたり、本などで読んだ知識しかありませんが、まずは保険に入るのに高額な保険料が必要な国も多く、さらにカバーされるのは膨大な診療費のごく一部(例:オーストラリアの40%など)です。

気になる歯科治療費ですが、日本人が多く住むアメリカのロサンゼルスで、よく行われる歯科治療の例を見てみましょう。(1ドル130円で計算:NOHO Family Dental Grouop HPより)

クリーニング:26,000円〜156,000円
歯周病治療(ディープクリーニング):1本65,000円〜 全歯 650,000円
白い詰め物:1本26,000円〜71,500円
根の治療(神経の治療):前歯65,000~169,000円 奥歯:104,000円〜221,000円

ちなみに、同じ歯科治療を日本で保険診療で受けた場合。(3割負担の方で計算)

クリーニング(一通り歯周病治療を終えてメインテナンスに入った方):約3,500円(歯周病検査、ブラッシング指導込み)
歯周病治療(ディープクリーニング):1本約230円
白い詰め物:1本約1,000円
根の治療:前歯:約960円 奥歯:約2,200円

特に根の治療は、その難しさに比べ診療報酬は驚くほど低く抑えられており、十分な時間と、使い捨ての高額な診療機材などを存分に使うわけにもいかず(存在していてもです)、そのジレンマから、保険診療ではなく、保険外診療として上記のアメリカと同じくらいの価格を設定し、根の治療を提供している歯科医院も出てきています。

当院では、現在なんとか歯科医師を3名確保し、歯周病治療にあたる歯科衛生士も複数勤務しているため、保険診療であっても比較的長い時間と、一人の歯科医師や衛生士が平行して数人を診る、ということがないような体制を取ってはいますが、継続するのは難しいことだなあと日頃強く感じています。

揺りかごから墓場まで?英国の歯科事情は

海外の先進国の歯科治療費が驚くほど高いことは、理解していただけたのではないかと思います。

しかしその中で、先進国の中で唯一、医療費が「無料」の国があります。そう、イギリスです。

NHS(国民健康保険)がすべての国民に約束されている英国では、近くの一般医(GP:歯科含む)に登録すれば、誰でも無料で医療を受けることができる素晴らしいシステム。「ゆりかごから墓場まで」を国が面倒みる優れた社会保障として、英国社会を担ってきました。

ただ、NHSの財政はとうに破綻しており、NHSの診療を受けるのにGPの約束を取るのにも一苦労、そして専門医への紹介となれば、何ヶ月も待たなければならず、その間に進行したり死んでしまうこともある、という話は英国在住の作家ブレディみかこさんのエッセイにも書かれています。

それでも、歯科は命に関わらないし、無料なら数ヶ月くらい待ったっていい、とお考えの方もいるかもしれません。

しかし、歯科治療において、NHSで無料で診てもらえる治療というのはごく一部の治療、検診やレントゲンのほか、歯石とり、アマルガムという日本ではもはや誰も使わなくなった銀の詰め物による修復、そして抜歯などに限られます。

日本で普通に保険診療で使われている白い詰め物や、根の治療などは、当然の如くプライベート(自費)治療です。

その費用といえば、上述のロサンゼルスの値段となんら変わりません。

何よりも、治療内容が限られている上に低く抑えられている診療報酬に嫌気をさして、NHS診療医をやめ、プライベート診療医になる歯科医が後を経たないため、NHSは歯科医師不足でさらに間口が狭くなり、診療を受けることすら困難になっている状況。

これは今に始まったことではなく、私が留学したずいぶん前(2004〜2005年)のあたりから問題になっていました。ビザ取得の厳しいことで知られる英国が、外国人歯科医師の労働ビザを緩和し、海外からの歯科医師にNHSを担当させようと目論み始めたのがこの頃です。

このような話を聞けば、やはり英国ではNHSに認められていない多くの高度な診療が、保険治療で低額で提供されている日本は稀有な存在だと思いますし、このことに感謝もせず、「歯は痛くなったら行けばいい」と思っている方がまだ多い現状を、憂えずにはいられません。

日本の歯科医も保険診療をしなくなる日がくるのか?

先ほど根の治療を保険外で行う歯科医院が出てきている、と話しましたが、これは良いことだと思います。根の治療だけではなく、すべてを保険外診療にして、ごく少数の患者さんを丁寧に診る、というスタイルの歯科医師も増えてきました。

「良心的に、赤字でも保険で診療するのが良い歯医者ではないのか!」

と思う方がいるかもしれません。

しかし、医療は赤字を出しては、決していい治療はできません。それでは自分や家族がまともな生活ができないし、スムースで清潔な診療を補助してくれるスタッフの雇用、より良い診断や診療のための機材、そして研鑽のための研修会、講習会。すべて、赤字では決してできないことです。

無料や、畑からの大根をもらって診療をしていた「あかひげ先生」は、もういないのです。

保険診療で自分が思う理想の「良い治療」を行えば、赤字になってしまうため、決死の覚悟で保険医をお上に返上し、自費だけの診療をすることを選ぶ歯科医師はこれからますます増えるのではないかと思います。

普段からきちんと歯のケアをし、ホワイトニングを定期的に行い、ごくたまに必要になる歯科治療には、保険外で良い治療を受ける。

そのようなサイクルができれば、日本人の歯も、健康も、歯周病の有病率も改善し、理想でしょう。

しかし、日本の政府も、「国民皆検診」を打ち出したり、以前は保険適用にならなかった予防のためのメインテナンスを保険適用にしたり、と改善が見られていることも確かです。

日本から「保険診療歯科医」がいなくならないように、今するべきことはなんでしょうか。

それはやはり、生活者の皆さんが自分の歯に対する意識をちょっとだけ上げて、悪くなる前に定期メインテナンスを通う習慣をつけること。

そして、歯科治療を受ける側も、「歯科なんかいくらでもあるし、安いんだから別に悪くなったらまた行けば」という意識をすて、無断キャンセルや急なキャンセルをやめてお互いにリスペクトできる関係を築くこと。

これが、大原則となるのではないでしょうか。

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