【ミニマル歯科治療】ここまでできる!究極のミニマル治療:ダイレクトブリッジ
こんにちは。歯科医師の松浦直美です。
前回のブログでは、歯を失った後の修復方法について、一般的な3つの方法をご紹介いたしました。
実は、この一般的な方法のほかに、もう一つ、ユニークな修復方法があります。東京医科歯科大学のう蝕制御学講座が開発した方法で、接着技術を味方にした、あっと驚くようなシステム。その名も「ダイレクトブリッジ」。
まだ予後の研究も少なくエビデンスが確立されていない方法ではありますが、その開発の裏には、教室を率いる田上前教授とその門下生たちの患者さんに対する溢れる愛がありました。特に、40代以上の比較的年齢の高い方には適していますので、ぜひ、ご紹介したいと思います。
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歯を全く削らずにブリッジを作る
ブリッジというのは、歯を失ってしまった際、その両脇の歯を使って3本つなぎの人工の歯を作り、セメントで接着させて使用します。固定式で、取り外しの必要はなく、セラミックなどの材料を使用すれば、見た目もとても美しい仕上がりが期待できます。
しかし、上の絵を見ていただければわかるように、両脇の歯をかなり削り込まなければブリッジを入れることができません。両脇の歯が全く無傷の場合は、歯科医としても心が痛むのがこのブリッジ治療なのです。
ダイレクトブリッジは、上図のように奥歯には対応できませんが前歯から小臼歯(糸切り歯の奥の歯)あたりまでであれば、適用できることがあります。条件は、支台になる両脇の歯が天然の歯であること、そして欠損が一本だけの場合です。保険は適用外になり、医院によって費用は異なりますが、3歯分のセットで10万円から30万円ほどの費用で行っているところが多いのではないかと思います。
世界でも進んでいる日本の歯科の接着技術
私が今在籍している(今年は休学中ですが)イギリスの大学のオンラインの審美歯科コース。もちろん、審美歯科にとても興味のある歯科医師たちが集っています。日本人は私だけですが、日本人だ言うと「アイラブ トクヤマ!」「クラレ!」など日本の審美材料や接着剤のメーカーをあげて賞賛の眼差しをうけたのは驚きました(笑)。
トクヤマもクラレも、白い詰め物やその接着材料で素晴らしい製品を作っていて、私もよく使用しています。特に、歯の一番表層にあるエナメル質に対する接着力は本当に強固で、一度接着してしまうと、カナヅチでただいても取れない、などと言われています。
この強力な接着力を利用したのが前述のダイレクトブリッジ。以前は考えられなかったようなやり方で、歯を全く削ることなくブリッジを「くっつけてしまう」ことが可能になったのです。
単純明快!ダイレクトブリッジの魅力とその作り方。
ダイレクトブリッジは、抜けた歯の両脇の歯が健全で、接着に使用できるエナメル質がしっかりと残っている場合、とても良い結果が得られます。歯を全く削らないで済むばかりではなく、年齢を重ねて歯を支えている骨が減ってしまったり、重度の骨粗鬆症などの健康上の理由で骨に人工歯根を埋め込むインプラントができない方への選択肢としても、とても喜ばれています。
実はダイレクトブリッジは、前述の東京医科歯科大学の田上順二前教授の教室で開発されて行われているものですが、まだ治療としてのしっかりとしたエビデンスが確立していません。もちろん、海外などで発表するのはまだ少し憚られるかもしれません。
しかし、エビデンスが出揃うには時間がかかり、待っていては多くの歯が削られてしまったり、だめになってしまう、という気持ちで、これらの接着力を利用した最新の治療は、行われています。歯を削らないので、万が一壊れるなどうまくいかないことがあっても、歯は健全なためその時にまた「次の一手」を考えれば良い。研修会で講師の先生たちのその言葉を聞いた時には、本当に愛を感じて感動したものです。そして、患者さんにはそのデメリットもお話した上で、選択していただいています。
さて、ダイレクトブリッジがどういうものなのか、百聞は一見にしかず。お二人ほど、症例を紹介します。
まとめ
ダイレクトブリッジは、健康な歯を削りたくない方や、インプラントを希望しない方、もしくはできない方への一つの選択肢となります。技工士がしっかりと製作したセラミックのブリッジに比べると、審美性は高くなく、材料が劣化してくることもありますし、稀ですが完全に壊れてしまうこともあり得ます。
しかし、それが「ミニマルインターベンション(MI:最低限の侵襲にとどめる治療)」との付き合い方です。定期メインテナンスに通いながら着色などの汚れがたまらないように気をつけ、時には研磨をしたり、ちょっとした修理をしたり。そうやって、歯をずっと削らないで済むか、なるべく人生の後ろの方に持っていければ、それは素晴らしいことですし、ダイレクトブリッジの生きたエビデンスも積み重なってくるのではないでしょうか。今後の技術のますますの発展に、期待しています。