少しずつ、理想に近づく(その2)〜第45回 歯科医師夫婦のつれづれ手帖

歯科医師夫婦のつれづれ手帖は、2010年から歯科医院を営む夫婦が、医院を訪れる患者さんに自分たちの人となりを知ってもらいたいという気持ちから、2014年より院内新聞の一角に書き始めた小さな文章。
なんだかんだで続いています。
ルールは2つだけ。
1 かならず毎月、どちらかが書く
2 内容は、歯科治療以外のこととする

第45回 少しずつ、理想に近づく(その2)

どんなに歯科治療の技術が進んでも、天然の自分の歯に勝るものはない。

治療は最後の手段にしよう、という気持ちから、「予防」や「定期メインテナンス」に力を入れようと張り切って開業した8年前のお話を、先月いたしました。そして実は、治療に比べ、予防について具体的にどう働きかけていけばいいのかは今一つ、わかっていなかった・・・ということも。

ひとつには、日本の保険制度が、「治療」にしか対応していないということもあります。

「予防」には保険が効かないのです。

国費で予防に取り組んでいたり、自費で予防処置を受けるためのプライベート保険が充実している他国の歯科医院に比べ、理想的な治療や予防を保険ですることができない現実。

しかしこれは、残念であると同時に、限られた予算の中では仕方のないところなのかな、という気持ちもあります。

英国では、最低限の治療を安い診察料で行うNHS(国民保険)の制度は疲弊し、多くの歯科医院がNHSの新規患者を受け入れなくなり、大きな社会問題になっています。保険で歯科医院に受け入れてもらえない家庭の子供たちの虫歯の氾濫が、病院での全身麻酔での抜歯になり、さらに財政を圧迫しているという状態だそうです。

歯科に公的保険が使えない、という国もたくさんあり、日本はまだまだ恵まれているな、と思うこともあります。

今のところ、一通り治療が終わった歯周病、または削るほどではないごく初期のむし歯に対して、歯石除去や歯磨き指導で、経過をみていくことには、保険適応が認められています。

積極的な「予防」とは少し違いますが、少なくとも「早期発見」「現状の維持」には一役買っているのが現在の制度。その意味を込めて、「メインテナンス」と呼んでいます。

手探りだった私たちも、開業後1年ほどたったときには、歯科衛生士と一緒に、今ある保険でまずはできる限りのメインテナンスをしていこう、治療の終わった方すべてに声掛けをして行こう、という気持ちになっていました。

そして、定期的にメインテナンスに通う方も少しずつ、そして確実に、増えていました。(続く)     文 松浦直美

2020年、予防が完全に保険適用に

この記事を書いた2018年は、まだ全ての方に保険で定期メインテナンスができる状況ではありませんでした。

しかし、歯周病の数値の制限はあれど、成人の方は多くの方が3ヶ月に一度の定期メインテナンスを受けることはできていました。

2020年、その「歯周病の数値」の制限も撤廃され、現在全く歯周病や虫歯がない方が、「予防」として保険を利用して定期メインテナンスをうけることが、可能になりました。

政府が、「予防」にお金をかけることが、ひいては1番の医療費の抑制になる、と判断したためと言われています。

2022年現在、4年前のこの記事を見ると、短い期間に大きな変化が起こるものだなあとしみじみと感じています。

そして、この当時から比べても、当院の予防歯科もますます進化し、今では毎月700人の方がメインテナンスに通ってくださっています。すべては、この時から頑張って礎を作ってきたおかげに違いありません。

これからも、多くの方に気持ちよく通院していただけるよう、努力を怠らずに邁進するつもりです。(2022、11月)

 

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