秘境 玉川温泉を訪れた 〜歯科医師夫婦のつれづれ手帖 vol 62

歯科医師夫婦のつれづれ手帖は、2010年から歯科医院を営む夫婦が、医院を訪れる患者さんに自分たちの人となりを知ってもらいたいという気持ちから、2014年より院内新聞の一角に書き始めた小さな文章。
なんだかんだで続いています。
ルールは2つだけ。

ルール1 必ず毎月、どちらかが書く
ルール2 内容は、歯科治療以外のこととする(時々ルール違反あり)

第62回 秘境 玉川温泉を訪れた

秋田県にある玉川温泉というユニークな温泉をご存知だろうか。

盛岡から車で1時間半ほど、旧田沢湖町から八幡平に登っていく途中に忽然と現れる、まさに秘湯という言葉がふさわしい温泉宿だ。

 トンネルをいくつも越えて川沿いの道を登り、最後の短いトンネルをくぐると、突然硫黄の匂いがしてくる。
なんだか、故郷についたような懐かしい気持ち。
地面からもくもくと煙をあげる地獄絵図のような景色を横目に降りていくと、見慣れた宿が見えてくる。

 

 玉川温泉は、肌がひりひりと痛むほどの強酸性のお湯と、宿の敷地から10分ほど歩いたところにある天然の岩盤浴が特徴の湯治宿。

その佇まいとお湯のめずらしさに、国内外からの観光客も立ち寄る有名スポットになったが、利用客の多くは難病をかかえる湯治客である。

宿が見える頃には、岩盤に敷いて寝るためのゴザを持った人たちが歩いているのが見える。
その名も「地獄谷」と呼ばれる岩盤は、ラジウムを放出する北投石を含有し、難病に効くとされて全国から湯治客が訪れる。

私がまだ学生だった頃、大病を患った母がこの温泉のことを伝え聞いて湯治に通うようになり、私もよく母について玉川を訪れた。
ゴザを持って着古した服に着替え、乞食のような格好で岩盤に寝そべると、隣のおばさんに「放射線が強いから若い女の人はここに寝ちゃダメよ」などと注意されたものだ。
もう30年も前の話である。

 「奇跡の名湯」などといわれる玉川温泉が本当に病気を癒すのか、医学的な根拠や真偽のほどはよくわからない。

しかし少なくとも、人を癒す力があることだけは確かだ。

玉川温泉にいると多くの人との出会いがあり、ゴザを敷いて岩盤に寝転べば、誰とでも話がはずむ。

「自炊部」とよばれる安い部屋に長期間滞在している多くの人たちは、病気を持ちながらも本当に明るく笑いが絶えず、台所は大にぎわい。
中には厳しい病状の方もいる。
しかし、玉川が奇跡を起こすとすれば、この人との触れ合いや、明るい笑いが一役買ってくれているのではないか、と確かに思う。

 久しぶりに訪れた玉川温泉。

ヒリヒリ痛い温泉に入り、岩盤にゴザを敷いて寝転んで、遠い日を思い出した。

あの頃の私たち母子に、玉川は確かに奇跡を起こしてくれた。

今も、希望を持って玉川に集う人たちが、穏やかで素晴らしい時間を過ごし、願わくば病気が癒えますように。地面から絶えずたち登る硫黄の煙と、真っ白な山肌を見ながら、強く強く、思った。              

文 松浦直美

 

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