サラブレット街道をひた走る!〜第98回 歯科医師夫婦のつれづれ手帖

歯科医師夫婦のつれづれ手帖は、2010年から歯科医院を営む夫婦が、医院を訪れる患者さんに自分たちの人となりを知ってもらいたいという気持ちから、2014年より院内新聞の一角に書き始めた小さな文章。
なんだかんだで続いています。
ルールは2つだけ。

1.毎月必ずどちらかが書く
2.内容は歯科治療以外のこととする

こんにちは。10月に入り、急激に寒い日も増えてきましたね。「歯科医師夫婦のつれづれ手帖」も、なんと98回になりました。もうすぐ100回!さすがに、しみじみとしてしまいますね〜。今回は、寒い冬に向かう前に、3日間の短い休みを利用して、北海道に旅行に行った際のお話です。アニメをきっかけに競走馬の世界にのめり込んでいる愚息と一緒に、雄大な北海道のひだか地方を訪れました。

Contents

第98回 サラブレット街道をひた走る!

先月のシルバーウィークは、昨年テレビやゲームで一世風靡した「ウマ娘プリティダービー」をきっかけに、競走馬にはまった末息子をつれて、北海道に短い旅に出かけました。

競馬には興味のなかった親の私たちも、息子から 多くのレースや、競走馬の逸話を聞かせられるうちに、馬の美しさやレースの面白さに、競馬を見る楽しみを少しだけ知ることとなりました。

函館で車を借りて、そこから長万部、苫小牧、ひだか、そして浦河まで、6時間。長いドライブ旅行の始まりです。

北海道の中でも、胆振、日高地方と呼ばれる洞爺湖周辺から苫小牧、日高、浦河町などの地域は、サラブレッド の生産育成や引退馬が余生をすごす牧場が数多く存在する、競走馬好きにはたまらない「聖地」。

今回のドライブは、まさに「聖地巡礼」です。

その中の一つ、ひだか市のベルサイユファームは、アメリカ発祥のビーズソファの会社「Yogibo(ヨギボー)」と提携し、御歳20歳の引退名馬「アドマイヤジャパン」をCMに起用したことで、この春話題になりました(下写真)。キャッチコピーは「馬もダメになるソファ」。

CMが出た時には面白すぎて、大笑いしたものですが、「年老いた馬を金儲けにつかっている」という批判もあったとか。

ところが、このCMのおかげで、引退馬を引き取って最後を看取る役割をは たす引退馬牧場への助成金がおりることになり、地域の牧場が潤うことに なったのは素晴らしい話。アドマイヤジャパンだって、嬉しかったに違いありません。

同じファームで同じく存在感をしめす「ギムじいさん」タニノギムレット、浦河の牧場で「チケ蔵」の愛称で愛されるウィニングチケット。コロナ禍での見学休止で会うことのできなかった、エリザベス女王並みの愛されキャラ、34歳ナイス ネイチャ。

かつて栄華を誇った名馬は年老いてもやはりスター。多くの「無名の馬」とともに、程よく経済活動にも貢献しながら、北海道の大地で幸せに余生を過ごしてくれることを祈らずにいられません。(文 松浦直美 MDCニュースレター 2022年10月号より)

後記:馬を愛してやまない厩務員(きゅうむいん)に出会えた

院内新聞の「つれづれ手帖」には書ききれなかったお話は、もちろんまだまだあります。

宿泊した「うらかわ優駿ビレッジAERU」という施設は、ただの宿泊施設ではなく、広大な敷地に牧場やグラウンド、キャンプ場などを備えた複合施設で、1993年の日本ダービーをはじめ多くの重賞を制覇した名馬「ウィニングチケット」が余生を過ごす場所としても知られています。

のんびりと草を食む引退名馬ウィニングチケット。愛称は「チケ蔵」

ちなみに、競馬といえば「武豊」と「オグリキャップ」くらいしか聞いたことのなかった私。「重賞」「G1」「日本ダービー」、先日盛り上がった「凱旋門賞」などの競馬用語は、私はこの歳になるまで全く知りませんでした。今では息子に聞かされてかなりの知識を持っていますよ!(まだ賭けたことはないですけどね)

AERUでは、「ウィニングチケット」と「スズカフェニックス」という引退名馬を予約なしで見学させてくれるほか、厩舎で馬を見せてくれたり、乗馬の体験をさせてくれたりしています。せっかくだからと乗馬を体験してみたのですが、担当してくれたスタッフの方は、かつてメジロマックイーンなどの名馬を多く輩出した「メジロ牧場」にいたという元厩務員。彼の「ウマ知識」には本当に脱帽しました。

その中でも人間社会にも深く通用する「名話」をたくさん聞かせていただき、忘れないうちにここに記しておこうかと思います。

馬の導き方は、子育てや仕事にもヒントがいっぱい

さて、まずはおそるおそる馬にまたがると、厩務員さんが、馬をひいて歩き出します。

「今、馬は上にいる人間をモニタリングしています」

まずは、上にいる人間がどれほどのものなのか。慣れているのか、緊張しているのか、厳しいのか、つまりどんな人なのか。何度も何度も馬場を歩いて、馬はそれを知ろうとしてるのだそうです。

「この人は、大したことないな。たぶん、今から馬場を出て散歩に行けば、道草して草を食べさせてくれるだろう」

そんなふうに、馬は判断するのだそうです。たしかに、この馬はこのあと何度も道草しました(笑)。

馬は本来とても臆病で、群れから離れたくない動物。隙さえあれば、道を戻りたがり、みんながいる家に帰りたがる。

「だから上にいる人間は、馬に「あっちにいくんだよ」と毅然とした態度で目標を与えてあげないといけないんです」

ただ、そこで注意。人間はついつい、「あ、あそこに岩があるな」「あそこに大きな穴ぼこがあるな」などと余計な気を回し、馬に迂回させようと手綱を引っぱったり方向を変えさせようとしてしまうもの。

「馬は歩き方は知っています。凸凹があれば自分でまたいでいくし、岩があれば迂回します。上にいる人はそんな目の前のやり方に口を出すのではなく、どこにいくのか、という目標を与えるだけです」

・・・なるほど〜。

なんとお深いお言葉。さらに、方向を転換させるときは、馬の頭を操作しようとしない、というのも大切。頭を動かそうとすれば人間の重心がずれて、また馬が迷うのだそうです。体ごと、重心ごと方向を変えてあげる、というのが「乗馬」上級者の馬の乗り方。ちなみに、上級者と呼ばれるには乗馬した回数(鞍数というのだそうです)が1000回以上、などの基準があるそうです。

重ね重ね、子供の育て方や、組織の経営などにあまりに通じるとしみじみ思った上、自分たちの今までの迷ってばかりだった道筋に「ドキッ」とし、まだまだ我らはひよっこ、上級者になるには経験も知識も人間性も、遠い道のりなんだなあと自分達のさまざまな鞍数を頭の中で数えてしまいました。

さて、今回のサラブレット街道の旅。北海道の牧場を訪ねるという素晴らしい経験をするとともに、牧場を運営する方々の地道な努力、そして馬への愛情を目の当たりにしました。「夢を売る」仕事、競走馬の育成には、名状しがたい苦労があることは想像に難くありません。にわか競馬ファンではありますが、馬たちの幸せと、牧場の繁栄を祈らずにはいられません。

 

 

 

 

 

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