祖母を思い出したある診療日 〜第88回 歯科医師夫婦のつれづれ手帖〜

歯科医師夫婦のつれづれ手帖は、歯科医院を共に営む夫(真面目なのでここではマジオ君)とともに、医院を訪れる患者さんに自分たちの人となりを知ってもらいたいという気持ちから、2014年から院内新聞の一角に書き始めた小さな文章。
なんだかんだで続いています。
ルールは2つだけ。
1 必ず毎月、どちらかが書く。
2 内容は、歯科治療以外の事とする。(時々ルール違反あり)

 今回は、先日、このブログの「デンタルサロンの窓から」カテゴリーに投稿したお話を少しリメイクして、院内新聞のコラムに書かせていただきました。そちらを見ていただいた方には同じ話で恐縮ですが、見知らぬ誰かに自分の大切な人を重ねることは誰にもあることなのではないかと思います。息子(私の父)を早くに亡くし、大きな悲しみを経た祖母でしたが、いつでも優しく明るく、思い出はたくさんあります。そんな祖母を思い出した診療室での一コマのお話です。

第88回 祖母を思い出したある診療日

80 代も後半になっても、少し離れたご自宅から、歩いて通院されている女性の患者さんがいます。先日私が初めて 担当させていただいたのですが、「あら、初めまして。私、ずっとお世話になっています」と丁寧に挨拶されて驚きまし た。「ここは少し遠いんだけどね、とてもいいので、あちこち寄り道しながら歩いてきているのよ。ぜひ、これからも頑張 ってくださいね」。痛みがあって来院し、その歯は残念ながら抜歯になってしまったのですが、その方は何度も頭を下 げてお礼を言ってくださいました。その姿に、今は亡き秋田の祖母を思い出しました。

 祖母は、ある歯科医院に長年通っていましたが、院長であった歯科医師が高齢のため亡くなり、引き継いだ娘さん の歯科医師のもとに通うことになりました。古い歯科医院の壁には、先代の院長の写真が飾られていて、その院長を 尊敬していた祖母は、歯科医院を訪れるたびに、必ずその写真に丁寧にお辞儀をしてから診療台に座ったそうです。

「あの娘さん先生ね、オレがいっつも大先生の写真にお辞儀するもんだから、オレのこと気に入ってるんだよ」 ある時得意そうに祖母が言いました。なんだ、気に入られたくて先代先生の写真に頭下げてたのか?意外としたたかだな(笑)。

それは冗談としても、女性でも自分のことを「オレ」という秋田弁と、長年お世話になった歯科医院への感謝の気持ち、そしてその気持ちゆえの自然な行動が、2 代目院長にいたく気に入られたことを孫娘に語る得意そうな顔。大正生まれの懐かしい祖母の顔が、丁寧に何度も頭を下げる目の前の患者さんにちょっと重なり、本当に心がじんわりと暖かくなりました。

歯科治療は、難しいことも多々あり、いくつになっても勉強の日々ですが、その成功は患者と歯科医師、双方の信頼関係があってこそ。 そんなお互いを幸せにする関係が、これからもたくさん生まれるといいなと願っています。

(文 のあみ)

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