患者さんの生涯に付き添える歯科だからこそ気付ける症状とは

こんにちは。歯科医師の松浦直美です。

先日、県の歯科医師会が主催した勉強会で、岩手医科大学で、高齢者歯学を研究する分野を主催する若き教授のお話を聞く機会がありました。

大学の教授などというと、一介の開業医とは違い専門の分野に深く特化しており、どちらかというと頭が硬く(スミマセン)、学究肌の方が多いのかな、と勝手に思っていました。しかし、今回のお話はとても興味深く、そして「これこそが、大学にいる人たちのやるべき仕事なんだな」と、深く感銘を受けました。その中の一つを、ご紹介いたします。

未病の患者さんに寄り添い続けれられる唯一の科。

歯科は健康な人が通う唯一の病院と言われます。はじめは虫歯や歯周病という病気で通院していても、治療終了してからも通っていただいているのが「歯科」です。

え?虫歯が治ったのに、なんのために?

それは、「歯科メインテナンス」。

ご自分の歯周病や虫歯のリスクに合わせた間隔(1〜6ヶ月)で、定期的に歯科に通い普段の歯磨きでは取りきれないバイオフィルム(プラーク)を取り除くことへの予防効果は、完全にエビデンスが確立されており、多くの先進諸国では治療ではなく予防のために歯科に通うのは当たり前になっています。そして日本でも、数年前から、特に症状のない方への定期的なメインテナンス(定期検診)にも、保険が完全に適用になりました。

歯科は、治療が終わってからが患者さんとの本当のお付き合いの始まり。

はじめはリスクが高く、短めの間隔でいらしてもらっていた方も、状態が落ち着けば3ヶ月ごと、半年ごと、と間隔を開けていきます。リスクの低い方は、1年に一回の定期検診でもよくなります。しかし、定期メインテナンスに「終わり」はありません。歯科との付き合いは、生涯続く、ということになります。それは言い換えれば、「未病」の方に、ずっと「保険治療の範囲内で」寄り添える、今のところ日本では唯一の診療科と言えます。

患者さんに寄り添う歯科が見つけられる病気

冒頭の教授先生のお話に戻ります。
歯科でのメインテナンスには歯科衛生士とのアポイントが必要ですので、当院であれば、できるだけすぐに次の予約を取ってもらい、予約日が近づいたら電話やメール、もしくは当院の予約システムのアプリなどからお知らせしています。

定期メインテナンスに終わりはないという話をしましたが、歯科メインテナンスに通われている方の中には、当然高齢の方もいらっしゃいます。衛生士との他愛のないおしゃべりを楽しみに、ついでに歯の汚れを綺麗に落として、検診して帰っていく、というような方も多いです。

教授が取り組んでいるのが、この歯科に通われている方の「認知の低下」への気づき。

長い間きちんきちんと通っていた方が、急に衛生士とのアポイントを忘れてしまうようになったり、ご本人から頼まれて前日や当日に電話してお約束の確認をしたにもかかわらず、来院がなかったり。また、穏やかだった方が、なんとなく怒りっぽくなっていたり。

このような変化は、実は当院でも時々起こっていることです。

心配な症状に、早期に対応できる可能性が

長期間患者さんに寄り添ってきた歯科だからこそ、見つけられるこのような変化。

岩手医科大学歯学部病院では、もちろん希望があればという前提にはなりますが、「日本老年医学会」が開発した簡易スクリーニングを実施し、心配な点があれば同じ岩手医科大学病院の神経内科へ連携をとれる体制を整備したそうです。

みてみると、とても簡単なちょっとした検査が一枚野上にまとめられていて、合計得点を確認します。
認知機能簡易スクリーニング検査MOCA-J(検査用紙)
認知機能簡易スクリーニング検査MOCA-J(検査方法)

また、開業医の神経内科の先生の中でも、そのような歯科からの依頼を受け入れてくれる医院も出てきているとのこと。

しかし、認知の低下などはとてもセンシティブな問題であり、少し心配な行動があったからといって、「認知症のスクリーニングを受けてみませんか」と声掛けするのはやはりまだまだ抵抗があります。

しかし、大学病院では確実にこのような動きを始めており、事態は大きく動いてきているのかな、という期待もあります。長く患者さんをみてきた歯科医師、歯科衛生士だからこそ気づく変化を見逃さずに、早期検査、早期治療へ導くことで、少しでも進行を停止したり回復させたりすることができれば、素晴らしいことではないでしょうか。

最後に

今回は、歯科だからこそ気づける「認知の低下」をスクリーニングして早期の治療を導く、というシステムの導入に取り組んでいる岩手医科大学の教授のお話を紹介させていただきました。

今まで経験したことのない高齢化社会において、歯科ができることといえば、なるべく歯を長く残す、そして残せなかったところはしっかりと機能回復させる、ということにばかり目が行きがちでした。しかし、定期メインテナンスを通して長く患者さんと付き合える性格を持つ、歯科にしかできないこのような取り組みは、本当に目からウロコ。まだまだ一般の歯科でルーティン化するのは難しそうですが、一人暮らしの高齢者も増えている今、一筋の光が見えたような、そんな気持ちがしています。

 

 

 

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