医科歯科連携の確実な息吹が聞こえた!〜骨粗鬆症治療前に歯科に対診をしてくださった整形外科医の話。
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患者さんのしずかさんが、整形外科からの2通の手紙を持って受診。
こんにちは。歯科医師の松浦直美です。
先日、最近始めた自分の骨ケアをきっかけに、骨密度の低下などから処方されるお薬と、歯科治療の関係を記事にしました。
不安を抱えた患者さんに相談されるたびに、まずは処方する医師の先生がきちんと説明してくれたらいいのに。。。。と、心の中で思ったことも何度もあります。「医科歯科連携」と言う言葉は、もうずいぶん前からあるのですが、最低限の連絡事項のみのやりとりはあれど、地域の開業医が連携する、という形にはほど遠く、そんなものかな、と諦めていました。
しかし、本日、ずっと当院にメインテナンスで通院している60代の「しずかさん」が、書類を2枚持って当院を受診され、その内容をみて驚きました。
いつもお世話になっている整形外科の先生が、この書類を歯科の先生にお見せして、返事をいただいてきてくださいとおっしゃるんです。
2枚の書類のてっぺんには「医科→歯科」、「歯科→医科」とあり、1枚目の医科からの書類には、しずかさんが骨粗鬆症の治療のために、ビスフォスフォネート系の薬を飲むことになったという内容の文章が、丁寧に綴られていました。
そして、2枚目の書「歯科→医科」の方は、歯科からのお返事として、どのような歯科治療を行うのか、など、簡単に書き込める形式になっていて、対診に対する歯科医の返答に手間を取らせないように、心配りがされていました。
さらに、しずかさんの骨粗鬆症治療開始にはまだ少し猶予があるため(緊急ではないため)、飲み始める前に、抜歯を含む必要な歯科治療があれば終わらせておいていただきたいこと、そして服用を始めてからも、整形外科医院の方からも口腔ケアの必要性をお話しし続ける予定です、と締めくくってありました。
この書類をみて、驚きと感動! なんと、とうとう整形外科の先生が、歯科に影響する薬を投与する前に歯科受診を勧め、そして服用した後の口腔ケアの必要性までお話ししてくれているのです。
実は、このような書類を持ってきたのはしずかさんが初めてです。一番下には、「この書類は、呉市医師会関係者のご厚意で、呉市医師会と歯科医師会の連携書を参考にして作成しています」とありました。おそらく、紹介先の整形外科医院が、この薬の投与における歯科との連携の重要さをお感じになり、わざわざ作成して下さったもので、まだまだ盛岡市をはじめとした周辺地区では、一般的ではないのだと思います。
それでも、大きな第一歩が見えた
骨粗鬆症の治療や予防には、おそらく整形外科や婦人科の先生たちも力を入れてくれているのだと思いますが、それに伴い投与年齢が以前より若年化しているようにも思われます。実際、昨年50代前半の私が整形外科を受診した際も、大腿骨の骨密度が少し減っているだけで、プラリア(抗RANKL抗体薬)の注射を勧められたのですから。
しかし医科で使われる薬は膨大で、すべての薬の副作用を気にしていたら、大変です。当然、どの薬や病気がどのように歯科に影響を及ぼすのかを熟知している先生は多くありません。そのため、「医科歯科連携」を叫んでいるのはどちらかと言えば歯科の方が多く、歯科で問題になるお薬や、歯科との関連性や口腔ケアの恩恵を強く受ける病気(糖尿病、低体重児出産、がん、高齢者医療など)を扱う医科の先生たちに、歯科への影響を訴え、連携をお願いする、という形が多いのが現状です。
実際、知り合いの歯科の先生たちが2021年9月の出版された「ご近所医科歯科連携導入マニュアル」では、どうやってそのこと(歯科への影響)を理解し、連携に対応してくれる近所のクリニックを探すのか、といったところから、「マニュアル」として書かれています。
そんな中で、整形外科の方から、歯科に対する丁寧な対診状を作成し、患者さんに持たせてくれたということには、とても大きな進歩を感じて、本当に光明をみた気持ちでした。しずかさんは当院にずっとメインテナンスで通院していましたが、まったく歯科に通う習慣がない方であればどうでしょう。
何も知らされずに投薬を始め、歯科のケアもしていないためやがて歯が痛くなって、抜歯が必要な場面がたくさん!それなのに、薬の影響を考えて抜歯は延期、または抜歯できない。必要があって投薬している薬なのに口腔衛生状態が改善して抜歯を行うまで、休薬を余儀なくされる。そんな残念なシナリオが、今までもたくさんありました。
今回の整形外科の先生のような対応をしていただける先生がこれからも地域で増えていただけるよう、願うばかりです。
しずかさんのその後
ずっと当院にメインテナンスで通っていたしずかさんでしたが、一本だけ、歯周病が進んでいてあまり良い状況ではない歯がありました。痛くもないため、様子を見ていました。しかし、今回の投薬予定を機会に、その歯を抜歯して、両脇の歯を土台にした「ブリッジ」を入れることになりました。
ずっとお世話になった歯とお別れするのは辛いわね。でも、おかげで心配な歯は今の所無くなったし、弱っていた歯を抜いてしっかりブリッジを入れられたので、却って噛みやすくなったわ。先生とも、久しぶりにゆっくりお話しできて嬉しかったわ〜
骨粗鬆症の薬ビスフォスフォネート製剤を投与することになったことをきっかけに、歯を抜くことになったしずかさんですが、そのお顔は晴れ晴れしていました。
前述の「医科歯科連携道入マニュアル」にもありました。患者さんは、「地域で診る」と言うこと。
いまや、ネットでいろいろな情報が耳に入る時代。専門家だからこそ話せる正しい情報と対応方法を、自分の医院に通う患者さんには直に伝えていきたい。それは医科も歯科も同じはずです。
医科歯科連携の息吹が聞こえた!しずかさん、これからも元気に通院、お願いします。