女性の骨ケアと歯科治療 〜知ってほいてほしい大切な話〜

こんにちは。歯科医師の松浦直美です。

お休みの日曜日は、なるべくヨガにいくようにしています。飽きっぽい私でもなんとか続けられている理由を、メインテナンスの記事に書きました。ついつい途絶えがちな歯科メインテナンスを無理なく続けるヒントはこちらから↓

運動を習慣にしなければ、と思ったきっかけは、昨年受けた骨密度検査。母が通院している骨粗鬆症専門の整形外科で、そういえば自分はどうなのかな?と思って検査を受けてみました。

結果は、「腰の骨は平均以上、大腿骨の骨は平均以下」との微妙な結果。
予防のための薬の投与も検討しましたが、まずは、運動と食事の見直し、そして、サプリメントとして、ビタミンDとプロテイン、大豆由来の物質で女性ホルモンと似た働きをすると言われる「エクオール」を摂り始めました。文字通り、コツコツと、です。

さて、40〜60代の多くの女性が気になる「骨粗鬆症」や「骨のケア」ですが、この症状が、歯科治療にも影響を及ぼすことがあることはあまり知られていません。本日のお話は、女性の皆さんに知っておいていただきたい「骨のケアと歯科治療の切っても切れない関係」です。

Contents

早い人は40代から始まる!更年期に備えて始める骨のケアには、どんなものがある?

女性ホルモンが少しずつ減少してくると、さまざまな症状が起こる方がいらっしゃいます。閉経前後の約10年を、更年期と呼んでいますが、この時期から、骨密度も少しずつ現象が始まると言われています。早い方では、40歳を迎える頃から、「更年期」の症状に悩まされる方もいるとか。

婦人科や整形外科で、骨密度の低下を指摘され、私のように運動や食事、サプリメントなどの対策を始める方もいれば、症状が進んでいる場合は服薬や注射などの治療を勧められることもあるでしょう。今日のゲストは、57歳の患者さん、主婦の「夢子さん」です。

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夢子さん

実は最近、骨粗鬆症と診断され、薬を飲み始めました。それを聞いた叔母に、「歯科にいけなくなるらしいわよ」と言われ、心配しています。

現在はさまざまな情報が飛び交っているため、こちらの夢子さんのように、「骨粗鬆症と言われて薬をもらっているのですが、薬を飲み始めると歯科治療をしてはいけないと聞きました」などと、極端なお話を信じて心配される方が多いです。

最近は、処方する医科の先生の中にも、該当する薬を処方する際は歯科治療の際の注意など書いた紙を渡してくれるなど、患者さんの心配を取り除く配慮も増えてきましたが、まだまだしっかりとした情報が行き届いているとは言えないのが現状ではないでしょうか。

骨粗鬆症における一般的な治療や指導は、次のようなものが挙げられます。(吉方玲美「40代から始めよう!閉経マネジメント」より)

  1. 食生活、運動習慣の改善、処方の必要のないサプリの利用
  2. 活性型ビタミンD剤の服用
  3. 骨粗鬆症治療薬の服用
    3−1:SERM 骨吸収の抑制、女性ホルモンに似た働き
    3−2:ビスフォスフォネート 骨吸収の抑制、骨石灰度の上昇
    3−3:抗RANKL抗体薬 骨吸収の抑制、骨石灰度の上昇
    3−4:甲状腺ホルモン薬 骨形成の促進
  4. (婦人科の診断のもと必要に応じ)ホルモン補充療法

これらはすべて、「骨粗鬆症の治療」にあたります。しかし、このすべてが歯科治療に影響するわけではありません。過剰な心配は必要ありませんが、ご自分の飲んでいるお薬が歯科治療に影響があるかどうかは、知っておく必要があります。

すなわち、気をつけるべきは、「服用している薬の種類」そして「服用してきた期間」です。

「骨粗鬆症」の治療を始めたら、どんな薬を使っているのかを確認しておきましょう。

骨粗鬆症と診断されて服薬、もしくは注射による治療を始めたもののうち、歯科治療に深く関わってくるのは、上記でお話した薬のうち、「ビスフォスフォネート(BP製剤)」と、「抗RANKL抗体薬(デスマノブ)」です。

BP製剤は、「アレンドロン酸」「ボナロン錠」「フォサマック錠」「べネット錠」などの一般名で処方されています。多くの一般名がありますので、処方されたお薬が「ビスフォスフォネート製剤(BP製剤)」なのかを、主治医に確認しましょう。

抗RANKL抗体薬(デノスマブ)は、骨粗鬆症の治療としては、「プラリア皮下注」として、半年に一回ほどの皮下注射として使用されています。

同じ注射をするタイプのお薬でも、骨粗鬆の治療ではなく、悪性腫瘍の高カルシウム血症などの治療のために月に一回ほど、静脈注射を行なっている場合は、骨粗鬆症の治療をしている場合よりもさらに注意が必要です。「ティロック注射液」「ゾメタ点静注」などの名前で使用されておりますが、上述のデスマノブを月に一回投与する方法もありますので、ここでも確認が必要です。

この二つの骨粗鬆治療薬が、歯の治療にどのように影響するのでしょう。

ご自分のお薬を確認できたでしょうか?お薬が、上記の二つのお薬(BP製剤または抗RANKL抗体薬)ではなかった場合は、特に歯科医院への申告は必要ありません。

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夢子さん

私は、半年に一回のプラリアの注射を提案されて、先日1回目を受けました。プラリアは「抗RANKL抗体薬」ですので、やはり歯科で注意が必要なお薬なのですね。

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なおみ先生

そうですね。しかし、該当するお薬であっても、通常の歯科治療は問題ありません。しかし、以下の歯科治療を行うときには、少し注意が必要です

上記のお薬が問題になるのは、稀ではありますが、ある種の歯科治療を行なった後に、歯を支えている骨に影響がでて、歯茎に覆われているはずの顎の骨が露出して腐蝕してしまったり、炎症がひどくなって治癒が著しく遅れてしまうという症状が出てしまう事があるからです。これは「顎骨壊死(ONJ)」と言われ、使用している薬がビスフォスフォネート製剤であればBRONJ, デスマノブであればDRONJなどと呼ばれています。

これらの症状が起こる可能性のある歯科処置は、「抜歯」と「歯周病の手術」「インプラント」です。ずなわち歯を支えている骨に影響を及ぼす治療です。

しかし、これらの起こる可能性は、飲み薬では1万人に1人ほど、半年に一回のプラリアでは10万人あたり多くても30人程度とされています。稀とは言っても可能性はゼロではなく、使用期間が長いほど(約4年以上)、リスクはやや上がる傾向にあるという報告もあります。

また、悪性腫瘍などでビスフォスフォネートやデスマノブの静脈注射の治療をされている場合は、発生率は50人に1人とかなり高くなります。

しかし、顎骨壊死の可能性があるからと言って、抜歯が必要な歯を、放置しておくことが良いのでしょうか。
歯科治療を放置しておくリスクと、ごく稀な顎骨壊死の発生のリスクを比べ、どちらが緊急性が高いのかを歯科医師とよく相談の上、治療に進んで欲しいと思います。

(数値はすべて「2016年 顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー」より)

影響のある薬を使用中の方が抜歯などの処置を行う際に気をつけること

骨粗鬆症により服薬や注射の治療を受けている方であれば、適切な予防処置や術前術後の管理を行うことで、顎骨壊死や炎症の悪化は防ぐことができる可能性が大きいとされています(現時点では後ろ向き研究のみの結果で、エビデンスはまだ明確ではありません)。

歯科医師側で術中に気をつけることは多々あり、その詳細はこの場ではお話しませんが、知識のある歯科医師であれば、なるべく侵襲の少ない方法で抜歯する、抜歯後の死腔をさけてしっかりと縫合するなど、最善の注意を払います。

また、上記の症状を防ぐ1番の方法は、細菌感染の予防です。そのため、患者さんにも行っていただくことがあります。

  • 普段からきちんとメインテナンスに通い、ケアしておく
  • それでも衛生状態が心配な方は、手術前に何度か歯科衛生士によるクリーニングや歯磨きの指導などしっかりと行う。
  • 術前から、抗菌薬を飲んだり、うがい薬を使用してもらう。

飲んでいるBP製剤などのお薬を休んでもらうかどうかにしては、現在統一した見解は得られおらず、ガイドラインも整備されておりません。しかし、多くの研究で、ビスフォスフォネート製剤を休薬してもしなくても、顎骨壊死の発症に差異は差異はないと発表されている(*)上、必要があって飲んでいるお薬を休むことへの不利益を考えて、当院では原則として、お薬の休薬はお願いしておりません。(*2016年 顎骨壊死検討委員会ポジショニングペーパーより)

また、半年に一度のプラリア注射であれば、その半減期が1ヶ月とされていることから、注射から3ヶ月ほどたち、次の注射まで3ヶ月ある、という時期に行うのが最も安全であると認識し、抜歯の計画を行っています。

一方、悪性腫瘍などで、静脈注射をされている方が抜歯が必要になった際は、前述の顎骨壊死の高い発生率を考えて、病院の口腔外科など、設備の整った施設にご紹介させていただく場合もあります。

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夢子さん

なるほど!普段からお口のケアに気をつけることが大切なんですね。まだ抜歯が必要な歯はなさそうだし、普通の歯科治療には特に影響がないと聞いて、安心しました。

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夢子さん

私が受けているプラリア注射は、時期をずらせば抜歯もあまり心配ないんですね。でも、抜歯にならないようにこれからもメインテナンスケアに通うようにします!

まとめ

今日は、40代後半から50代にさしかかると処方される可能性がでてくる骨粗鬆症のお薬と、歯科治療の関係について、説明させていただきました。骨粗鬆症の治療がすべて歯科に影響があるわけではありませんし、該当のお薬を使用しているからと言って全ての歯科治療に注意が必要なわけでもありません。

やはり、なんでも相談できるかかりつけの歯科医師を見つけ、普段から定期メインテナンスや口腔ケアでお口の中を清潔に保っておく。結局は、そこに行き着くのかなと思います。

この記事が、多くの方の役に立っていただけると嬉しく思います。

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