40代からのオーダーメイドメインテナンス3 〜バイオフィルムはこうやってやっつける〜

こんにちは。歯科医師の松浦直美です。

本日は、前回からの続きです。

40代から特に意識していきたい歯科メインテナンス。その主な目的は、歯や歯周ポケットの中にこびりついてしまった〇〇を取り除くこと。

〇〇にはいる言葉、覚えていてくださった方がいらっしゃると、うれしい〜。

答えは、そう、「バイオフィルム」。口腔内に存在する虫歯菌や歯周病菌などのいわゆる「悪玉菌」が、歯などの硬い面に張り付いて、ねばねばした物質でドーム型のおうちを作り、どんどん仲間を引き入れて、薬や殺菌剤を寄せ付けないユートピアを作り出す、というミクロの世界のお話をしました。復習したい方は、ぜひこちらをご覧くださいね↓

これから、歯科医師や歯科衛生士が実際にどのようにして、このにっくき「バイオフィルム」に立ち向かっているのかを、お話します。

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プロの歯磨き「術者磨き」でやっつける

自分たちだけの「ユートピア」を作って、バリアに守られた幸せな生活を送っている「バイキン」たち。これが、バイオフィルム(歯垢、プラーク)の正体です。ひとたびバイキンがバイオフィルムを形成してしまうと、強固なバリアに守られているため、抗菌薬も、殺菌作用のあるうがい薬も、まったく歯が立たなくなります。

そんな「バイオフィルム」ですが、実は除去するのは拍子抜けするほど簡単。

歯ブラシのようなもので、「機械的に除去する」。つまり、何かを使って物理的にごしごしとこすり取ってしまうのが一番なのです。

ごしごし、といいましたが、もちろん力の入れすぎは禁物。普段のセルフケアのポイントを指導するのも、定期メインテナンスの大事なコンテンツです。さらに、わざわざ歯科医院に来院してもらったからには、ぜひ「プロの歯磨き」を経験して欲しい。

「習うより、慣れろ」という言葉がありますよね。

歯磨きも一緒。もちろん、ちょっとだけ、ワンポイントのように、その方の「危険部位」への歯ブラシ(歯間ブラシや、フロスのこともあります)の当て方を指導するのもプロの仕事です。

でも、なんといっても体で感じてもらうのが一番。正しい「歯磨き」を熟知している歯科医師や歯科衛生士に、歯科メインテナンスのたびに歯磨きをしてもらうのです。私たちはそれを「術者磨き」と呼んで、メインテナンスの大切な部分と位置付けています。

自分ではなかなかうまく当てられない奥歯の裏、被せ物のふち、インプラントの根元。毎日お口の中をのぞいている術者は、どこにバイオフィルムがたまるのか、熟知しているので歯ブラシを適切に届かせます。あなたの歯科医院で術者磨きをしてくれているようなら、ぜひ、意識を集中し、歯ブラシの毛先が当たっている感覚を感じて、少しずつ、真似てみてください。

機械を使ったPMTCでやっつける

ところで、私たち歯科医療従事者が考える「バイオフィルムを取り除くべき場所」は、実は2種類あります。

わかりにくいので下の図で説明しますが、歯茎のラインより上の「歯肉縁上」、そして歯茎のラインより下の「歯肉縁下」です。

歯肉縁上は、いわゆる「歯」の表面のことで、普段私たちが歯ブラシで磨いている部分。ここにくっついたバイオフィルムを取り除くことが、普段の歯磨きや、メインテナンスでの「術者磨き」の目的です。

 

それに対して、歯茎のラインより下の「歯肉縁下」は、いわゆる「歯肉のみぞ」のことで、ここにバイオフィルムがたまって炎症がおきると「歯肉炎」、さらに炎症が進むと歯周ポケットを形成して「歯周病」へと進行します。

歯ブラシでどうしても落としきれなかった歯肉縁上のバイオフィルムと、この歯肉縁下のバイオフィルムを取り除くのがPMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)です。汚れがたまりやすい歯と歯肉の境目に歯ブラシを当てることは大切ですが、歯肉のみぞに歯ブラシの毛先をつっこんで磨くことは推奨しません。溝の中や、深くなった歯周ポケットの中に直接ブラシをあてることは歯の根元を傷づけ、危険なこともおあります。歯肉縁下(歯肉の溝や歯周ポケット)のバイオフィルムの除去は、プロに任せるべきです。

PMTCというのは、その名の通り、「機械を使ったプロフェッショナルによる歯のクリーニング」。ちょっとわかりにくい大文字アルファベットの羅列ですが、歯科医院でもその名前を患者さんに教えているところや、女性雑誌などでも取り上げられることがあるので聞いたことがある、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。(PMTCは、保険適用の「歯石の除去」とは違う位置付けとして、保険適用外として行っている歯科医院がもあります)

一般的にPMTCと謳われている施術法は、下図のようにクルクルと回るブラシ型やシリコンの小さなカップのような形の機械をつかって、歯の表面や歯茎のみぞを磨き上げていく方法。バイオフィルムが破壊されて、つるつるとした感覚を感じることができるでしょう。

さらに、現在もっとも効果的にバイオフィルムを除去できるとされているPMTCのための「機械」は、次に紹介する「エアフロー」。専用のミクロのパウダーと水を歯面に吹き付けて、歯を傷つけることなくバイオフィルムを除去します。

究極のPMTC、エアフローでやっつける

私の医院では、PMTCは回転式の器具は一切使わず、スイスのEMS社が開発した「エアフロープロフィラキシスマスター」という機種を使用しています。

ハンドピースの先から噴射するグリシンパウダーと水で、バイオフィルムはもちろん、茶渋やコーヒー、ワインによるステインも綺麗に除去してくれる、最新型のPMTCのための器具です。回転式器具のように歯に直接器具が触ることはないので、いわゆる「磨きすぎ」の恐れもありません。
歯肉のみぞのバイオフィルムも、根元の歯質を傷つけることなくしっかりと落としてくれるため、本当に信頼性の高い器具と言えるでしょう。

まとめ

40代以降から特に意識したい、歯科メインテナンスに通う目的について、2回にわたりお話してきました。

メインテナンスの目的は、バイオフィルムの除去。最後に、虫歯を確認するためにきれいになった歯を「検診」して、メインテナンスは終わりです。できれば、術者磨きと、歯を傷つけないPMTCを体験していただけると、もっと歯科に「行きたくなる」はずです。

バイオフィルムをおうちでの歯ブラシで除去できる場所(歯肉縁上)と、歯科で除去してもらって欲しい場所(歯肉縁下)についても、わかっていただけたことと思います。

まずは、自分に合った頻度で、歯科に通う習慣をつけること。40代まで、歯科に通う習慣がなかった方は、明日からでも始めましょう。

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