【ペリオ大学】歯ブラシ一本で、歯周病を予防しよう。

こんにちは。歯科医師の松浦直美です。

「ペリオ」というのは、歯科用語で「歯周病」という意味。

【ペリオ大学】は、全身の健康に大きく影響を及ぼすこともあるほか、「口元の見た目」も左右してしまう「歯周病」に関連した話題をなるべくわかりやすく、お話するためのシリーズです。

今日のテーマは、歯周病治療の要の要。「歯ブラシ」の話です。

Contents

なぜ歯ブラシが歯周病治療のカナメなのか?

歯周病は、ある特殊な遺伝性のものを除いて、原因がはっきりとわかっています。

歯周病の原因。それは、バイオフィルム(プラーク)。

口腔内に浮遊している細菌は、歯という硬い面をみつけるとそこに付着し、仲間を増やしてネバネバとした物質を出し、居心地のいい自分たちのドーム型の住処を形成します。それが、バイオフィルム(プラーク)です。バイオフィルムは取り除かれないでいると、どんどん仲間を増やして成長し、そしてそのうち細菌同士の「優劣」が現れ始め、「嫌気性菌」と呼ばれる歯周病菌や虫歯菌などの悪玉細菌が増えてくると言われています。

お風呂や台所でお掃除を怠けるとできるぬるぬるとしたもの。あれも、細菌の種類は違いますが、同じバイオフィルムです。薬液を振りかけただけではダメで、スポンジでゴシゴシと擦りとらなければ、決して落ちませんよね。

同じように、歯と歯ぐきの境目に形成されたバイオフィルムは、悪玉菌が猛威を振るう前に、早め早めに「擦り取ること」が何より大切になります。歯科医院に定期ケアに行くことはもちろん理想ですが、毎日行くわけにも行きいません。結局は、セルフケアである歯ブラシによる歯磨きで、なるべくバイオフィルムを取り除くことが大原則になります。

どんな歯ブラシが歯周病治療や予防に効果的なのか

では、どんな歯ブラシを使えば、歯周病の大きな原因である「バイオフィルム」をうまく取り除くことができるのでしょうか

テレビのコマーシャルを見ると、実に多くの歯ブラシが売られていることがわかります。本当に、なるほど、よくこんなところに目をつけたな、というアイデア商品もあります。それは、歯ブラシの毛先の形だったり(すごくほぞい、先が少し丸まっている、などなど)、ギザギザをつけた毛の植毛の仕方だったり、柄のデザインだったり。

最近感心したのは、クリニカで出した「極薄ヘッド」。あの部分が薄いと確かに口の奥が狭い方にはとてもいいだろうな、と思います。

他にも、企業の涙ぐましいまでの努力が垣間見える歯ブラシが、たくさんあります。当院で販売している歯ブラシも、工夫がたくさん。

 

先が細く、つま先(先端)部分は三角形に尖った形状の「ルシェロ」歯ブラシ。当院のスタンダード。

お子様用ですが、毛の色を変えることで歯ブラシの当て方をわかりやすく教える、という目的。

なんと、力を入れすぎると音で知らせる!歯ぐき下がりの元になる強すぎるブラッシングを阻止してくれる歯ブラシ。

これらを紹介したのは、このようなメーカーの努力が詰まった歯ブラシを、買って活用してください、というためではありません。

一番言いたいことは

「世の中にありとあらゆる歯ブラシが出回っているけど。。。要は、何を使ってもいいんですよ」

ということ。つまり、「バイオフィルムが約80%落とせればそれでいい」のです。(80%を落とす「磨き方」は、やはり歯科医院で歯科衛生士さんに指導してもらうことが必要です)

ある面白い研究があります(*1)。一般的に売られている歯ブラシと、各種メーカーが自信をもって新発売した数種類の「工夫を凝らしたデザイン」の歯ブラシのプラーク除去の効果を、一般の人たちの協力により比較したものです。結果は、「まったく変化なし。」

磨き方のクセは人それぞれ。どんなデザインの歯ブラシでも、同じところに磨き残しがある、ということもわかりました。

結論を言うと、歯ブラシのデザインはなんでも良いので、好きなメーカー、柄の形、ヘッドの大きさなど、自分好みのものを使っていいのです。毛の硬さも、自分が心地いいものでOK。

歯ブラシの推奨交換時期は1ヶ月。いろんな歯ブラシを試してみるのもいいのではないでしょうか。

当院に毎月クリーニングにいらっしゃる方は、出張が多いので、温泉旅館やホテルの歯ブラシを持ち帰り、1ヶ月それを使うことも多いとか。「最近のホテルの歯ブラシも捨てたもんじゃないからねえ」。私も、そう思います。

電動歯ブラシはどうでしょう

当院でもよく聞く質問。「電動歯ブラシって、あれ、どうなの?」

電動歯ブラシはずいぶん前からさまざまな種類の物が売られていて、数百円のものから、数万円のものまで値段も色々。

中には、「高い電動ブラシを使っているから、安心」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、上の文を読んだ方はもう予想されているかもしれませんが、こちらも大規模な研究で、「健常者における比較」では、プラーク除去の効果に、手磨きとの違いはほとんどありませんでした。(*2)

要は、「手で磨ける程度に、電動歯ブラシでも磨ける」と言うことです。やや時間短縮の効果はありますので、手できちんと磨ける方が、忙しい時に活用するのは良いかと思います。

ここで、「健常者」というのは、自分で問題なく歯磨きができる方を指し、高齢者や、介護の現場などで、歯磨きがご自分で難しい方に関しては、電動歯ブラシはとても役立ちます。

まとめ

歯周病は本当に怖い病気です。私は、「歯周病になると〇〇(心臓病や認知症など)になる!!」などと脅しのように患者さんに話をすることはありませんが、歯周病といくつかの病気については、関連性が明らかにされています。

*歯周病と全身の病気の関係についてまとめた記事はこちらから。

病気との関連も気になりますが、何よりも歯周病は患者さんのQOL(生活の質)を下げてしまいます。しっかりと食事ができない、口臭が強い、痛い、腫れる。そして歯周病特有の歯が伸びたような見た目とブヨブヨした歯茎は、「美しい口元」とはかけ離れてしまいます。

こんな歯周病を、1本数百円の「歯ブラシ」で、予防したり、治療したりすることができるのです。これを活用しない手はありません。

磨き方は、やはり歯科医院でしっかりと学んでください。そして、定期的に行く「歯科メインテナンス」は、ご自分の歯磨きのチェックと、普段磨けない20%を落としてもらいに行く、と考えてください。習慣になった方は、20%どころか、5%くらいになってしまう方もいらっしゃいますよ。

参考文献
*1 Claydonn N, Addy M, Comparative single-use plaque removal by toth brushes ofo different designs. J Clin Periodontol 1996;23(12)1112-1116
*2 Rugg-Gunn AJ, Macgregoor ID, Edgar WM, Ferguson NW. Toothbrushing behavior in relation toplaque and ginngivitis in adolescent schooolchildren. JPeriodontal Res 1979;14(3):231-238

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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