【ブレスケア入門】口臭患者さんが、○○症候群だった!

こんにちは。歯科医師の松浦直美です。

開業したばかりの頃、東大阪市の口臭専門外来を立ち上げて、「ほんだ式口臭治療」を開発した本田俊一先生に直接の指導を受け、口臭に悩む方々の対応をしていたお話を、以前の記事でお話しました(↓記事は下をご覧ください)。口臭専門外来とは、通常の歯科治療や、ドライマウウスなどの対応をしたにもかかわらず、どうしてもご自身の口臭が気になってしまう方や、誰にでもある生理的口臭への不安が強くある方へ門戸を開いている専門外来です。

最近、以前口臭で深く悩んで当院に来院したことのある方が、10年近くの時を経て、再来院されました。当時、当院で口臭治療を受けたものの、なかなか不安が改善せず、紹介して口臭専門外来に診ていただくことになった方です。

Contents

10年後に分かった衝撃の事実

その女性は、とくに虫歯も歯周病もなく、口腔内に問題はない方でした。それなのに、とにかく口臭が気になって気になって、辛くて仕方がない。通勤のバスの中でも、いつも昆布をしゃぶって唾液を出すようにしていると訴えていました。唾液の不足を疑って、唾液検査をしてみても、特に量や緩衝能力に問題があるわけでもなく、一通りの検査を終えても私には何にも原因が見つけられませんでした。

その後、口臭専門外来に紹介して診ていただき、さらに詳しい検査も行って、カウンセリングを受けることで、症状はだいぶ治まり、その後しばらく当院で受けていた通常の定期検診にも、そのうち来院されなくなりました。

ひょっこり再来院した彼女と、約10年ぶりの再会を喜んで、その後どうしていたのかを聞いてみると、転勤で関東の方にいたとのこと。最近地元に帰り、また私の医院に定期検診に来てくれたのです。

その彼女から、衝撃の一言が。

「先生、私、関東の病院でシェーグレン症候群と診断されました」

・・・えっ??なんですと?

シェーグレン症候群とは、先日の「ドライマウス」のお話でも話題にしたのですが、唾液を出すもとになる「唾液腺」が炎症を起こして萎縮してしまい、唾液が出なくなってしまう原因不明の自己免疫疾患です。しょっちゅう遭遇する、というわけではないですが、その特徴的な乾燥の強い口腔内から、歯科で発見されることが多い病気です。【ブレスケア入門】ドライマウスについての記事はこちら↓

口臭の原因のほとんどが、何らかの「乾燥」と関係しています。その患者さんが「女性」で、「40代以上」であれば、まずシェーグレン症候群は疑わなければならない疾患の筆頭にきます。

しかし、当時の彼女は20代。しかも、唾液検査をしてもしっかりと唾液が出ていました。シェーグレンを疑う余地は、全くありませんでした。

病気と分かって、口臭と付き合えるようになった

もちろん、口臭専門外来でいろいろな検査をし、どのようなケアをしていけばいいのかを丁寧にカウンセリングしてもらったことで、当時はだいぶ楽になったのだそうです。

しかし、彼女が「シェーグレン症候群」であることを、見抜くことができませんでした。今でも、本当なの?という気持ちです。

でも、本人は、「昆布をかじりながら過ごさなければならなかった」本当の理由がわかって、さらに楽になったといいます。

正直、シェーグレン症候群と診断されたからと言って、できることはあまりありません。人工唾液(サリベート)や唾液分泌促進剤を処方してもらえる、ということはありますが、基本は通常の「ドライマウス」のケアと一緒です。

実際、唾液分泌促進剤は発汗などの副作用が強く、彼女は自分のタイミングで、必要に応じ処方してもらう程度にしているようです。以前口臭外来で教わったケアと、「病気」に対して自分でコントロールできるようになったこと。口臭への不安がなくなって、もともと美人さんだった彼女は、今はさらに落ち着きの備わった女性に成長していました。

今回10年ぶりに来院してくれたかつての「口臭患者さん」に、私も大いに教わりました。典型的な症状がなくても、患者さんを「気のせい」「気にしすぎ」という前に、調べることはもっとあるということ。「ステレオタイプ(偏見)」を取り除かなければならないのは、私たち専門職の方なのかもしれません。

気になる症状があれば、どこを受診する?

シェーグレン症候群は、口腔内の乾燥感の他に、目が乾くドライアイもよくある症状です。口の中の不快感、舌や歯肉のヒリヒリとした痛み、ねばねばした嫌な感覚。そのほかに、歯の根元に虫歯が増える、といったこともあります。診断されることで、使用できる薬などもあり、根本治療にはなりませんが、症状を少しでも和らげることができる可能性があります。

気になる症状があれば、リウマチや膠原病を専門としている内科を受診するのが一番ですが、かかりつけの歯科や内科などに相談することで、そのエリアで適当なクリニックを紹介してもらえます。

40代以上の女性に多いとされるシェーグレン症候群。まれに、その枠組みに入らない方もいます。診断されたら、症状を和らげる医療を受け、あとは歯科でのメインテナンスを続ければ大きな心配は起こりません。不安がらずに、心配なことがあれば、いつでも相談してください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関連記事