【インプラント患者学】インプラントを入れたら、メインテナンスをお忘れなく
こんにちは。歯科医師の松浦直美です。
先日、当院に6年ぶりにいらした患者さんがいました。
お見えになった理由は、「インプラントをみてほしい」というもの。
その方は以前定期メインテナンスに通っていましたが、転勤のため他県にお引っ越しになり、それ以来メインテナンスに行く機会を逸してしまっていたとのこと。
久しぶりに盛岡に帰っていらしたので、また当院を訪れてくださったのです。
でも、私はとてもドキドキしていました。6年もメインテナンスをしていなかったなんて、インプラントがどうなっているか、心配だったのです。
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インプラントとは
インプラントとは、歯を失ってしまった後に、直接あごの骨にチタン製の人工の歯根を埋めて、その上に人工の美しい歯を被せて、失った歯を修復する治療方法です。
その歴史は古く、きちんとした治療を行えば成功率も90%以上。
ブリッジや入れ歯とともに、歯を失ってしまった場合の選択肢の一つであり、適応を見極めて行うことで、多くの方がその恩恵を受けています。
インプラントについてまとめた記事はこちら↓
しかし、せっかく受けたインプラントを長持ちさせるためには、患者さんのほうも「やりっぱなし」はいけません。
できればインプラント治療を受けた同じ歯科医院で、きちんとしたメインテナンスを継続することを忘れないでほしいのです。
*引っ越しなどでかかりつけ医が変わったとしても、インプラントのメーカーなどをしっかりと教えていただいていれば問題はありません。
インプラントも歯周病になる
歯周病というのはその名の通り、「歯の周りの病気」。つまり、歯そのものは虫歯もなく健康でも、その歯を支える周りの組織(歯ぐきや骨)が炎症を起こして、骨が溶けてきます。
全く同じ現象が、インプラントでもおこることはあまり知られていないかもしれません。
その名も、「インプラント周囲炎」。インプラントを埋めた骨に炎症がおこり、骨が溶けてインプラントの支えが失われていきます。
「インプラントは人工物なのに、歯周病になるなんて!」
いえいえ、インプラントは、一度周りの歯肉に炎症が起こると、天然の歯よりも悪化しやすいと言われています。インプラント治療を受けた方は、きちんとメインテナンスに通院していただくことが大前提になります。
インプラントの歯周病の種類
インプラント周囲粘膜炎
インプラントの周りの歯肉に炎症が起こって、検査の際に軽度の出血がある状態。まだ骨に影響は及んでいないため、この段階で出血をしっかり止める治療を行うことが大切です。
歯科医院でのバイオフィルムの除去、正しい歯磨きの仕方を確認してもらい、次の「インプラント周囲炎」に移行しないようにします。インプラント周囲粘膜炎は、インプラント治療をした方の3割にもみられると言われています。しかし、粘膜炎のうちに適切に対応すれば、良くなることも多い症状ですので、定期的な検診が重要になります。
インプラント周囲炎
インプラントを埋めている周りの骨にまで炎症が及んで、骨が溶け始めている状態。インプラント周囲炎になってしまうと、外科的な処置が必要になることもあります。最悪の場合は、インプラントを抜かなければならないこともあります。
インプラント周囲炎にならないためには
インプラント周囲炎になりやすい方は、次の通りです。
まずは、歯周病があるのにしっかりとした治療を行わずにインプラント治療をした場合。
次に、セルフケアや歯科医院でのメインテナンスを怠っている方。
そのほか、糖尿病や、喫煙もリスクが高くなります。
インプラント周囲炎にならないように、日頃のセルフケアをしっかりと行い、定期メインテナンスを受けるようにしましょう。インプラント周囲炎の前段階、「インプラント周囲粘膜炎」と診断されたら、セルフケアを変えてみる必要もあるかもしれません。
そのほか、噛み合わせを調整したり、歯切りしぐせがないかを確認したりして、インプラント周囲炎への移行を予防していきます。
さて、件(くだん)の患者さんは
久しぶりに当院にお見えになった冒頭の患者さんのインプラントは、どうなっていたでしょうか。
幸い、レントゲンで大きく骨が溶けてはいませんでしたが、歯周病の検査でじわりとインプラントの周りから出血し、「インプラント周囲粘膜炎」になっている状態でした。
虫歯もできていたため、おそらく仕事で忙しくしている間に、セルフケアもおざなりになってしまっていたのかと思います。
まだ、「インプラント周囲炎」にはなっていない状況でしたので、数回歯科医院に通ってもらい、歯科衛生士と一緒にセルフケアの復習からはじめてもらうことにしました。もちろん、エアフローなどの歯を傷つけない機器を使用して、インプラント周りのバイオフィルムをしっかりと除去することも忘れずにおこないます。
「インプラントがどうなっているのか、心配だったんです」というその方は、危ういところで、なんとか大切な3本のインプラントを守ることができそうです。
まとめ
インプラントを入れたら、しっかり噛めるようになったし、見た目も綺麗。それでもう安心、と思ってしまう方は多いです。
しかし、インプラントといえども自分の歯と同じではありません。
これからは、他の歯と同じようにインプラントにしっかりと目をかけ、手をかけて、なるべく長い期間快適に使っていただけるように、ちょっとした努力も必要になります。
インプラントのメインテナンスにも、歯科医院はしっかりと対応しています。どうぞ、定期メインテナンスを忘れないように、お願いいたします。