ちまたで言われている「歯と〇〇の関係」はどこまで本当なのか?!

こんにちは。歯科医師の松浦直美です。

開業して12年。当院では、一貫して「定期メインテナンス」の重要性を来院者さんにお話し続けてきました。

開業当時はまだ定期メインテナンスの考え方は浸透しておらず、いろいろなパンフレットを手作りしたりして、啓蒙に励んでいました。

定期メインテナンスと歯の寿命の関係を説明するのはいいのですが、歯が悪くなるとこんなふうに「全身の病気」が起こる可能性がありますよ、などと、言葉は悪いですが「脅かしたりなだめすかしたり」して、なんとか定期メインテナンスに来てもらえるようなモチベーションを与えようとしていましたね〜(遠い目)。

現在では、メインテナンスにくる目的は、あくまでも「口腔ケア」であり、歯科本来の「虫歯」と「歯周病」、そして「口臭」のできる限りの予防、とお話しています。それ以上の「付加価値」が、定期メインテナンスに本当にあるのかどうか。

この10年でも、さまざまなことがまことしやかにマスコミでも取り上げられ、話題になってきましたが、最近のエビデンスに基づいて、その「信憑性」をご紹介したいと思います。

歯と肺炎

口腔ケアが肺炎の予防になることは、完全に因果関係が確立されています。全身麻酔を伴うような手術の前に、術後の肺炎を予防する目的で、かかりつけ医で口腔ケアを受けるように言われることも多くなったのではないでしょうか。

口の中の細菌が肺に入り込むことで起こる誤嚥性肺炎を起こした方の肺や気道に、歯周病菌の代表選手であるジンジバリス金が高い頻度で見つかることからも、因果関係は明らかです。高齢の方などで、歯磨きがなかなか行き届かない方こそ、口腔ケアは大切になります。

定期メインテナンスを受けたり、ブラッシング方法を歯科衛生士と練習していただいている方は、間接的に肺炎の予防にもなっている、と言えます。細菌の塊「バイオフィルム」は、取り除かれずに時間が経つと「歯周病菌」などの嫌気性菌が優勢になってきます。これらのお口の中の悪玉菌を、できるだけ減らしておくことが大切なのです。

歯と認知症

これは、結構気になる方が多いのではないでしょうか。

残っている歯が多いほど、アルツハイマー型認知症になりにくいという研究は多方面でされています。歯がほとんどなく、入れ歯も使用していない人は、歯が20本以上ある人に比べて認知症にかかるリスクが1.9倍も高い、というショッキングな結果もあります(愛知老年学的評価研究:神奈川県歯科医師会HPより)。

しかし、最近の研究では、残っている歯の数と認知症との関連性はそこまで大きくないとされています。(参考1)

歯を失っても、しっかりと入れ歯などで噛み合わせを回復していれば、あまり心配することはありませんし、残っている歯がどのくらい「まとも」なのか、も大きな問題で、残っている歯の数だけでリスクを測るのは無理があります。

しっかりとした歯を残し、失ってしまった歯があれば、修復して咬む機能を取り戻しておくことが、残っている歯の数を数えるよりも大切、というわけです。

しかし、歯周病と認知症の関連性は、大きな関連がわかっています。

2020年に行われた大掛かりな研究では、歯周病と認知症の発生には関連があり、現在の歯周病有病率をあと50%減らすことができれば、世界中の85万人(63万人から142万人)の認知症患者を発生させずに済む、と結論づけています。(参考2)

歯を失う原因の半分が歯周病、と考えれば、やはり歯周病の治療と予防が、歯の数を保ち、豊かな社会生活をもたらし、さらには認知症の予防の一端を担う、ということになります。

歯と糖尿病

糖尿病と歯周病の間にも、確固とした関連性があります。

歯周病が糖尿病を引き起こす、という直接の関連性ははっきりしていませんが、以下の関連性は確実に確認されています。
① 糖尿病が歯周病を悪化させる(歯周病は糖尿病の合併症の一つである)
② 糖尿病の人が歯周病治療をしっかり受けると、血糖コントロールの改善に有効である。

現在のエビデンスでは、定期メインテナンスに通っていれば糖尿病の発生を防げる、というのは言い過ぎになると思います。

しかし、定期メインテナンスに通っているにもかかわらず、急な歯周病の悪化を示す数値がでて、そこから糖尿病がわかった、という事例もありますので、やはり定期的な歯周病のチェックは必要です。

そしてもちろん、糖尿病のある方は、きちんと主治医の元で糖尿病のコントロールを受けた上で、しっかりと歯科医院での定期メインテナンスを受けることが、何より必要になることは、今や火を見るよりも明らかです。

歯と心臓病

以前、歯周病が心臓病に関連しているとされ、アメリカでは「Floss or Die」(フロスをするか、それとも死ぬか?)という過激なキャンペーンが行われたことがありました。

しかしその後、アメリカの心臓協会が2012年に歯周病が心臓病の発症や重症化に影響を及ぼすという十分なエビデンスはない、として行き過ぎたキャンペーンに一石を投じたとか。(ダイヤモンドオンライン:特集 決定版 後悔しない歯科治療より)

確かに、歯周病が動脈硬化や心筋梗塞などの発症の引き金になる、というエビデンスは弱いとされていますが、歯周病治療することで、炎症が収まり、ひいては全身の炎症の減少や動脈硬化の原因となる動脈内皮の機能改善にも役立つことは、明らかにされています(参考3)。

上記の糖尿病と同じく、歯周病だからこの病気になる、というよりは、この病気だからこそ、人一倍歯周病に気をつけていく、という考え方が正解なのでしょう。

まとめ

今回改めてこの記事のためにいろいろ調べてみて、開業した12年前とは、少しずつエビデンスや考え方も違ってきている部分もあるなあ、というのが率直な感想です。

よく言われている歯と全身の病気のうち、「肺炎」「糖尿病」「認知症」、そして「心臓病」という比較的身近なものとの関連の最新の考え方をご紹介しました。

いろいろと述べてきましたが・・・・結局は

「四の五の言わずにきちんと定期メインテナンスに通っておくれ!!」

という結論になりますね。

ただ、該当の方には、「脅し」ではなく、きちんと納得していただけるように、上記の最新エビデンスをもとに、伝え続けたいと思います。

 

<参考文献>
1.Oh, B., Han, DH., Han, KT. et al. Association between residual teeth number in later life and incidence of dementia: A systematic review and meta-analysis. BMC Geriatr 18, 48 (2018). https://doi.org/10.1186/s12877-018-0729-z

2.Nadim, R., Tang, J., Dilmohamed, A. et al. Influence of periodontal disease on risk of dementia: a systematic literature review and a meta-analysis. Eur J Epidemiol 35, 821–833 (2020). https://doi.org/10.1007/s10654-020-00648-x

3.Zardawi, F., Gul, S., Abdulkareem, A., Sha, A., & Yates, J. (2021). Association between periodontal disease and atherosclerotic cardiovascular diseases: revisited. Frontiers in Cardiovascular Medicine7, 625579.

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